Posted on 2016.01.17 by MUSICA編集部

indigo la End、充実の1年を振り返りながら、
新たなサッド・アンセム『心雨』の真価を問う

そろそろ俺らがめっちゃアレンジの幅を持ってるってことは
驚かれなくてもいいんじゃないかなって思ってて。
“心雨”って恐怖を感じるくらいのメロディだと思うし、
最後のミックス聴いてゾクゾクしました

『MUSICA 2月号 Vol.106』P.62より掲載

 

■このインタヴューは年末に行っているので、シングル『心雨』の話だけでなく、2015年の振り返りも含めていろいろ聞いていきたいんですけど。まず、12月3日の国際フォーラムのライヴは本当に素晴らしかった。2015年のこのバンドの到達点を感じました。

後鳥亮介(B)「確かにそうですね。いい感じでできたなって凄く満足してます。ツアーじゃなくて、あの1本だけのライヴだったんでどうなるか心配だったんですけど、しっかりできたなって思ってます。アコースティックコーナーもあったので、ヴァリエーションある感じでできたんじゃないかと思います」

■カーティスは、途中からかなり感極まってましたが。

川谷絵音(Vo&G)「え、感極まってたんですか?」

長田カーティス(G)「極まるでしょ!」

川谷「全然気づかなかった(笑)」

長田「(笑)確かにアコースティックコーナーは大きい会場では初めてやったんですけど、凄くいい緊張感があったし、純粋に今までやってないことができて面白かったなって思ってて。あと、“白いマフラー”っていう古い曲を改めてあの場所で演奏できたのが嬉しかったですね。僕ら、昔渋谷QUATTROでワンマンやっても全然売り切れなかったりとか、その前はMARZでワンマンやってたんですけど、その頃とは見える景色が全然違って。凄いよかったなって思い感極まりましたね」

■栄太郎くんは2015年にこのバンドに正式加入したことも含めて、個人的に1年間いろんなことがあったんじゃないかと推測しますが、どうだったですか?

佐藤栄太郎(Dr)「凄くその通りです。僕、今27歳なんですけど、26歳までの音楽人生と2015年の1年間を比べると、全然成長率が違うんですよ。indigoに入ったばっかの時の演奏と今の演奏を比べると、全然別人なぐらい自分でも成長したと思ってるんで、そこをしっかり見せられてよかったですね。……正直、ライヴが楽し過ぎてなにんも覚えてないぐらいで(笑)」

■この1年で自分が覚醒した理由ってなんだったんですか?

佐藤「今までは決して売れてるとは言えないバンドで活動してたんですけど、それでも自分らで試行錯誤しながら活動してたんです。でもindigoに入ってからは、もの凄く大勢の人に曲が届けられて、大勢の人の前で演奏しなきゃいけないし、いろんな人がバンドに関わってて、その人達からよくも悪くも評価されたり、ダメ出しされたり褒められたりして――そうすると、否が応でも責任感が湧いてくるんですよね。今までは『別にミスっても、そんなにお客さんいないし好きにやるか』みたいなバンドで変に甘えてたところがあったんですが、規模がデカいバンドに入ったことで、ケツを叩いてもらったって感じですかね」

■絵音くんは忘れられない27歳の誕生日になったと思うんですけど。

川谷「そうですね。僕、その日体調崩してて、点滴まで打ってたんですよ。でも、みんなのおかげでしっかりライヴができたし、そういう意味でも忘れられない1日になりましたね。ああやって誕生日祝われることもめったにないんで。なんか毎年誕生日にライヴ開催してる誕生日好きみたいなイメージになっちゃってますけど(笑)」

■必死に抵抗してたね、「俺は誕生日嫌いなんだ」って。

川谷「ははははははは。でも、ああやって祝われるのは悪い気しないです(笑)。自分の誕生日もそうだし、indigoとして一番デカいキャパのワンマンっていうこともあるし、個人としてもバンドとしてもメモリアルな体験が重なったなって思ってます。栄太郎が入って1年弱経ちましたけど、自分達がそういう大きなキャパでやれるバンドになったんだなっていう驚きも含めて、この4人での節目ができたのはよかったなって思いましたね」

■2015年は『幸せが溢れたら』というアルバムを出して、メンバーチェンジも経て、このメンバーで新しいindigo la Endを確立しました。振り返ってみて、2015年はどうだったと思いますか?

川谷「2015年入っていきなり前のドラムが辞めて――そこから栄太郎が入って、初めてのレコーディングを1月5日ぐらいからやってて。『これは凄いことになるかもしれない』って思いながら2015年の幕が開けたんですよね。で、『幸せが溢れたら』っていうアルバムは今までの作品で一番多く売れて、オリコンもトップ10内に入って――だから、2015年のスタートとしてはいいのか悪いのかわかんないんですけど(笑)」

長田「ははははははははは、複雑なスタートだったよ」

川谷「で、栄太郎がサポート体制のままライヴをやったんですけど、ツアー回る度に自分達の音楽が広がってる感触があったんですよね。そこから中野サンプラザも赤坂BLITZも全部ソールドアウトしましたし、そこから初めて栄太郎と作った『悲しくなる前に』っていうシングルを出せたし、いろんな意味でメンバーチェンジがこのタイミングでよかったのかなって今は思ってます。僕、そういう時はいつも『元から決まってたことなんだ』って思うようにしてるんですけど」

■性善説みたいなね。

川谷「本当に。だから、栄太郎が入ることもおそらく3年前に出会った時から決まってたんですよ。3月17日の中野サンプラザで『栄太郎が正式メンバーになります』って発表できたのも、よくできたストーリーだなって。そういう意味では、2015年は充電期間って感じでしたね。だから――」

■ちょっと待って。『幸せが溢れたら』からシングル2枚出して、フォーラムでライヴができるようになった1年が、充電期間だったってこと?

川谷「そうですね」

■……凄い表沙汰な充電期間だね。

一同「ははははははははははははははははははははは!」

川谷「僕の中では充電してるつもりだったんですけど(笑)。どうしても今のメンバーで作った曲が少な過ぎるし、このメンバーではまだアルバムを作ってないから、ちゃんとしたリスタートができてないのかなって思ってて。だから、次のアルバムが出て、ほとんどの曲を栄太郎が叩いてるっていうセットリストが組めるようになった時、やっと今のindigo la Endを見せられるかなって思ってます」

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text by鹿野 淳

『MUSICA2月号 Vol.106』

Posted on 2016.01.17 by MUSICA編集部

スガ シカオ、史上最もディープでラディカルな
『THE LAST』リリース。狂気の激作を語り尽くす

独立して嫌な想いもしてきたから、
とにかくこのアルバムを叩きつけてやりたくて。
で、俺が叩きつけられる武器はポップミュージックじゃないし、
ポップミュージックではあいつらを叩き切れないなって思ったんです

『MUSICA 2月号 Vol.106』P.44より掲載

 

■6年ぶりのアルバム。力作過ぎて訊きたいことがあり過ぎるんですけど。

「ははははは、嬉しいです。今日はトコトンいきましょう!」

■まず、このアルバムは独立後のインディーズとメジャーの曲も含めて1曲しか過去曲が入ってないですよね。しかも、みんな曲単位で音楽を買うようなこのご時世に、「アルバム」っていう世界観をトコトンまで考え抜いた非常に稀有でラジカルな作品でもある。50代前の代表作として、こういう作品を作ろうと思ったのはどういう理由からなんですか?

「独立する時に『集大成を作る』っていう啖呵をファンや自分に対しても切った手前、怖くてずっとアルバムに取りかかれなかったんですよ、実は。シングル配信とかで作品を積み重ねてはいくんだけど、じゃあ自分の集大成ってどういう骨格なのか?って考えたら全然わかんなくて。……で、そのままずっと時が過ぎていって。最悪の手段として、シングルはいっぱい切っていたから、その総集編みたいなものなら許されるのかな?っていう逃げの考え方もあったんですけどね」

■でも、現実的にそれは初回特典の『THE BEST』(という独立後のほとんどのリリース曲が入っているスペシャルCD)でやってますよね。

「そう! アルバムに取りかかる前は、これ(『THE BEST』)を出せれば形になるのかなって思っていたけど、それもなんか怖かったんですよね。で、小林(武史)さんと組むっていうのは、結構前からお願いをしてたんですけど、ようやく小林さんが本腰を入れた時に、どこにボールを投げていいかわからなくて、曲は既発曲も含めて40~50曲あるんだけど、それをどう組み立てたらいいかわからないし、どうしたら自分の集大成って呼べる作品になるのかもわからなくなってるっていう話を正直に小林さんにしたんです。そうしたら『じゃあ既発曲は1曲もなしで、全部新曲でいこうよ。まずはそこから始めよう』って言うんですよ」

■よかったじゃない、自分では決められない一番怖い一言を言ってくれて。

「ほんとそうだよね。だからね、既発曲を散りばめたアルバムを集大成として逃げようとしていたのを、軽く見破られたなって思いましたね。で、まずは持ってる曲を全部小林さん出したんだけど、シングルの曲やJ-POPの匂いがしたり、青春っぽい曲は全部外されていくわけ(笑)。で、4月の真ん中くらいの段階でこの曲順に決まったんです。でも“アストライド”だけはどうしても入れたいってお願いをして、11曲目に入れてもらって」

■その時にJ-POP的なもの、つまりはシーンの中で「スガシカオ」ってキャラクターを確立できた世界観の曲も外された時はどう思ったんですか? だって、この作品はスガシカオとしての覚悟の作品でもあり、人生半世紀の集大成でもあり、傑作を作らなくてはいけないっていう気持ちもあった時に、どうしてポップなキラーチューンを捨て去る決断にビビらなかったの?

「実は曲順が決まる前に、今、自分が聴いている曲や好きな曲を30~40曲集めて『こういう感じの曲を作りたいんです』ってプレゼンテーションをしていて。その時にいわゆるJ-POP的な曲や背中を押してあげるような曲が1曲もなかったんですよ。そういうことがあったから、小林さんの言うことと自分が本来求めていたことの辻褄が合っちゃったんですよね。なので、結構早い段階からJ-POPはもう、一切諦めていて」

■ほら、インディーズ時代MUSICAで初めて表紙を飾っていただいた時にこのアルバムの話をしていて。その時には「50歳までの代表作を作るんだ」と。あと、もうひとつ「それを、今まで一番売る作品を作る」っておっしゃっていてですね−−−−。

「えっ!? そんなこと言ったっけ!!??」

■はい、活字化されてますから。

「ヤベーー!!!!!!(苦笑)」

■あはは。「ヤバい」じゃないだろ、今更。

「『いいアルバムを作るとは言ったけど、売るアルバムを作るとは一言も言ってない』ってこの間、会議で公言しちゃったんだよ……」

■ははは、後でレーベルのスタッフにその記事全部コピペしてメールしときます(笑)。でも僕はこの作品で、「ヤバさ」と商業作としてのバランスが両立していると思っていて。簡単に言うと、50歳までの代表作っていうのは「夢」で、今まで一番売るっていうのは「現実」だと思うんですけど、その「夢」と「現実」をポップミュージックの中でどうバランスを取っていくのかっていうのを今までスガさんはやってきたし、ある意味それが音楽として一番優れたバランスになっているのが今作『THE LAST』だと思うんです。これは売れるべきアルバムだし、メディアとしては売りたいアルバムなんですけど、同時に相当ディープな作品になったわけで。そこに至るまでにスガさんの中でどういう道筋があったのかっていうのを、ここからみっちりお訊きします。

「はい、いきますね。結局、俺の一番の武器ってJ-POPじゃないんですよ。じゃあ、俺の武器ってなんだろう?って考えたら、誰もやらないところをガッと書いたりとか、書いちゃいけないものが感じ取れたりする歌詞の深い世界観だったり、曲のアレンジの斬新性だと思っていて。そういうところが一番スガシカオっぽいところだから、そこに特化して作ることが一番重要だっていうのが僕と小林さんの中ではあって。そこにJ-POPとかバラードとかが入ってくると、せっかく尖っていた部分が、ならされちゃうんじゃないかなって思って。『尖ってる曲もあるよね』っていうのは『スガシカオは尖ってるね』っていうのとはイコールではないんですよ。だから、そこに思いっきり特化しようっていうことになり、歌詞を書く時に、いわゆるトレンドを狙った『人のためになる歌詞』を意識せずに、誰も行ったことのないところに行くドキドキ感を最優先して作ってたんです」

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text by鹿野 淳

『MUSICA2月号 Vol.106』

Posted on 2016.01.16 by MUSICA編集部

MAN WITH A MISSION、遂に生み出した
絶対的名盤『The World’s On Fire』!
誇るべき最高傑作を全曲解説で徹底解剖

イツノ時代ヲ切リ取ッテモ、ロックノ要素ハコノ世界ニ流レテイル。
我々MWAMハソノ時々ニ自分達ガ考エル正解ヲ
作品トシテ提示シテキタヨウニ思ッテイテ。
ソノ中デモ、今回ハソレガ顕著ニ表レタ1枚ニナッテイルト思イマス

『MUSICA 2月号 Vol.106』P.44より掲載

 

■本当に素晴らしいアルバムです。MAN WITH A MISSIONの最高傑作であると共に、もっと普遍的な意味でのロックアンセム集としての名盤だと思います。

「オー! アリガトウゴザイマス! 今回ノアルバムハ肉体的ニモ技術的ニモイロイロト新シイコトニ挑戦シタアルバムダッタノデ、不安ガナイト言エバ嘘ニナル制作期間ダッタンデスヨネ。今マデ自分達ガゴ一緒サセテイタダイテイタサウンドエンジニアダッタリ、プロデューサー、アレンジャーノ方トハ別ニ、新シイチームデ取リ組ンダ楽曲ガ多カッタノデ」

■それはつまり、ドン・ギルモアやショーン・ロペスといったアメリカのプロデューサー、制作チームと一緒に楽曲を作っていったということですよね。

「ソウデス。ソレニヨッテ音楽的ニモ凄ク――」

★恒例ですが、ここからは滑らかな日本語に翻訳して皆さまにお届けします。では続きをどうぞ!

「――音楽的にも凄く新鮮な感覚が流れまして。で、そうなった時に今までの自分達の作品とどの程度トータリティを取るべきなのか?みたいな不安もありつつ作っていたんですけれども、改めて聴き直した時に、心から挑戦してよかったなと思える作品に仕上がっておりますね。前作はコンセプトアルバムという形態を取ったことで、逆にかなり自由にいろんなことをぶち込んだ1枚になったんですけれども、それを皆さまにお届けした時に確かな手応えを感じることができまして。それによって『もうひとつ飛躍した何かをこのバンドでできるんじゃないか』という自信が生まれたんですよね。その自信の下に新たな挑戦をしていったんですけど。やってよかったですね」

■楽曲自体の普遍性も度量も凄く増したし、バンドとしての風格も一段上の場所へと押し上げるアルバムになったと思うんですよ。これはMWAMの非常に優れた部分だと思ってるんですが、今までのMWAMは、自分達の敬愛するロックを受け継ぎ鳴らしつつも、2010年代の日本のロックシーンのフィジカルな時代感にきっちり折り合いをつけていくというスタンスでやってきたと思うんです。でも今回はそこから一歩抜け出して、シーン云々を飛び越えた大きな場所に立つ、堂々とした名曲が並んでいて。

「ありがとうございます。普遍性という部分は、本当により明確に表れた1枚になってるんじゃないかと思いますね。以前から常にバンドとして掲げている軸のひとつではあったんですが、特に新しいチームと組ませていただいた時に、具体的なアレンジ面において、そこにフォーカスしたアドバイスをいただくことがとても多かったんです。その中で、ソングライティングに向かう自分達自身の意識ももの凄く変わった1~2年だった気がします」

■実際、今作には“Survivor”や“Waiting for the Moment”“Give it Away”のような攻撃的でフィジカルの強い楽曲もあるんですけど、ただ、肝を握っているのは“The World’s On Fire”や“Memories”、あるいはこのターム最初のシングル“Seven Deadly Sins”のような雄大でアンセム性の高い楽曲で。今までより心に響く太さと強さが格段に増してるんですよね。

「ありがたいお言葉です。これまでもその両面をめざしつつも、基本的には攻撃性の高いフィジカルな楽曲が我々の中心にいてくれていたという自覚は当然ありまして。でも今回のアルバムでは、内省的な楽曲群もそれらと肩を並べられるだけのパンチ力で出せるようになった、それだけの世界観を築き上げることができたと思います。それができたのは新しいチームのおかげでもありますし、同時にデビューから5年の間に作り続けてきた楽曲のおかげでもあるような気がしまして。総合的に見て、自分達にとって一番チャレンジしている作品であり、そしてその挑戦がこれまでの自分達の成長といい形で融合を果たしてくれた作品になったんじゃないかと思いますね」

 

(中略)

 

1. Survivor

 

■アルバムのオープニングに相応しいスペイシーなイントロで幕を開けるんですが、そこからスリリングでラウドな展開へと突入する、直下型の攻撃ソングです。カミカゼ・ボーイ作曲の楽曲ですが、ジャン・ケンさん的にはどんなイメージをお持ちですか。

「カミカゼはこういった攻撃的で、同時にドラマチックな楽曲を書くことを非常に得意としているオオカミでもありますので、そういう意味では彼らしい楽曲なんですけれども。ただ、その一方でこの曲は、我々が得意とすることのひとつであるミクスチャーというジャンルをもうひとつ上の段階まで持っていくにはどうしたらいいのか?ということに対して、カミカゼ自身もいろいろチャレンジした楽曲なんじゃないかなと、一緒に制作しててずっと思ってました。結果アルバムの走り出しという意味でも非常にドラマチックな展開で突き進んでいける楽曲になったと思いますね。一方でメッセージに関しては『サヴァイヴする=生き残る』ということ――このマインドは、特にバンドをやってる人はもの凄く強くあるものだと思うんですよ。この時代の中で生き残らなければいけないという――実際、ロックというもの、音楽というものがそこまで追い詰められているところもありますしね。そういった意味では自分達自身の、もしくはカミカゼ自身の心情というのが非常にダイレクトな形で昇華されてる1曲なんじゃないかなと思います」

■具体的に<容赦無き生存競争>というリリックも出てきますけど、実際、2015年はバンドとしてそういう意識が強かった1年だったんですか?

「それは2015年に集約したことではなく、常にありますね。ロックというのはそもそも、どこかしら反骨精神を持つものであると思うんですよ。歴史を辿ってみても、何かに抗って生まれる衝動や情熱というものが凄く作用していますし。それはどんな綺麗なジャンルでも、どんなエゲつないジャンルでも、バンドをやっている方であればその心の中に一本流れている心情だと思うんです。ただ、自分達は幸せなことに、ロックという『何をやってもいい』という自由さを持ったジャンルが好きになって、実際こうやってバンドを組ませていただいてますけど、でも今はそのジャンル自体が世の中から消えようとしている――と言ったら大袈裟ですけども、生き残らなければいけない、その瀬戸際の段階に来てるような気もしておりまして。で、それを我々のチームで一番口酸っぱくボヤいているのがカミカゼなんですよ。彼はやはり、音楽の時代の流れというものに敏感にフォーカスしているオオカミでもありますので。だからこそ、こういった歌詞になったんじゃないかというのは感じておりますね」

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text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.106』

Posted on 2016.01.16 by MUSICA編集部

10年代後半のシーンを牽引する
新世代バンドMrs. GREEN APPLE。
最初の「ログ」たるフルアルバム『TWELVE』から
大森元貴の心を覗く

自分は愛っていうものを求めてるし信じてるし
自分の中で裏切りたくない。そういう決意表明みたいな
ところはこのアルバムに凄くあるんだと思います

『MUSICA 2月号 Vol.106』より掲載

 

■怒涛の1年を経て、新年開幕と同時にいよいよフルアルバムが出ます。これまでミニアルバム3枚出していて、それは3部作としてどれも元貴くんの中で明確なテーマを設定して作ってきたものだったわけですけど、今回はどういうことを考えて作ったんですか?

「今回のアルバムは、制作を始める時に今までのようにコンセプトだったり、自分の中での答えみたいなものをあまり決めずに、『今のMrs. GREEN APPLE』っていうものを全部詰め込めればいいなと思って作り始めたんですよね。自分自身としても、作りながらそれを模索して、作り終わった時に何か答えが見つかっているようなアルバムにしたいなっていうのがあって。実際そういう話をメンバーともしたんですけど。だから今回は最初から決め込んで、みたいのはなかったです」

■それって初めてのやり方だよね? どうして今回は作りながら模索したいと思ったの?

「なんか未知数なところを楽しみたかったところもありましたし、あとやっぱり、『Mrs. GREEN APPLEとはなんなのか?』っていうことを自分自身でもちゃんと知りたかったっていうのが一番大きな理由だったと思います。『Mrs. GREEN APPLEとは?』みたいなことって、いざ言葉にしようとしても自分達ではやっぱり言えないんですよね、当事者だから。で、それを知るためにも、自分達が今までどういう音を鳴らしていたのか、今どういう音を鳴らしたいのか、そしてこれからどういう音楽を鳴らしていこうと思っているのか、みたいなものを、アルバムっていうひとつの形として今ここでログとして刻みたかったんです。それでこういう今までとは違った作り方にしたんだけど」

■今までの作品は、元貴くん個人の中にある価値観を音楽という形にして提示していくものだったと思うんですよ。で、そうやって提示することこそが、元貴くん自身が音楽をやる理由でもあったと思うんですけど。でも今話してくれた「Mrs. GREEN APPLEとは?」っていうテーマは、それとはちょっと性格が異なりますよね。そこには、音楽を作っていくということにおいて元貴くんの中で「バンド」っていうものに対する意識が強くなった、その比重が大きくなったみたいな部分もあるんですかね?

「それはめちゃめちゃあると思います。僕らインディーズデビューもメジャーデビューも2015年の1年の間にしてて」

■そうだよね。ほんと激動だったよね。

「はい(笑)。見つかるのも気づかれるのも全部が1年の間に起こってて、だから活動の濃度がもの凄く濃い1年だったんですよね。そういう期間を経てちゃんとバンドとして結束というか、団結できた1年で……その中で、自分が純粋にメンバーに対して心を開けるようになってきたっていうのが凄い大きな事実としてあると思う。本当にそれだけだと思いますね、今までと違うところっていうのは」

■でも、それはとても大きな変化ですね。

「そうなんです。もちろん今もMrs. GREEN APPLEの核の部分を作っているのは自分だっていう意識があるし、それはずっと変わらないんですけど、でも前はひとりで曲を作って発信しなきゃっていう意識とかプレッシャーが凄く強かったのが、今は周りに4人がいてくれるっていう感覚が、以前よりずっと強くなったんですよね。たとえば作品を作っていく時にも、今までは言葉にして共有しなきゃいけなかったところが、言わずとも共有できてたり、ライヴでメンバーとパッと目が合った時の、『ドキッ』っとする瞬間が以前よりも凄い増してきたり……なんか漠然としたことばかりなんだけど(笑)、でもそれは自分にとっては凄い変化で。なんというか、自分の砦というか、居場所が固まってきたのかなぁっていう実感があります」

■前にインタヴューした時に、自分は寂しがりやで、仲間意識を強く持ちたい人なんだけど、小中学校時代にそれが持てなかったショックは大きかったと話してくれたけど。

「そうでしたね(笑)」

■そういう自分がちゃんと居場所を見つけられた感覚は、この1年で生まれたんだ。

「たぶんそうなんだと思います。それによって本当に肩の力が抜けてきたのも感じるし」

■実際に今回のアルバムはバンド感も増しているし、曲のポップさはもちろん、突き抜けていくエネルギーが凄く強くなっていて。それは最近のライヴでも強く感じたところなんですけど。前は「楽しませよう」という意識が空回りしてる瞬間もあるように見えたけど、今はバンドとしてのパッションがちゃんと出てきてるよね。それによって曲自体もどんどん活き活きしてきているし。

「うん。ちょっと吹っ切れたところもあるかもしれない。『これがMrs. GREEN APPLEだよね』みたいなイメージの制約を作りたくないっていうことは凄くメンバーとも話してるんですけど、でも、やっぱり僕らのひとつの武器として、あんまり周りのバンドが歌おうとしないポップスとそこにあるキラキラ感みたいなもの――それって深い意味でもあるしダサい言葉でもあるんだけど、そういうものを思い切り表すことができるっていうのは、自分らが今持てている切符なのかなって思ってて。だったらそこを最大限に活用しようよっていう吹っ切れた考えみたいなものは、メンバーとの信頼関係ができてくるのと共に生まれてきたように感じてます」

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text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.106』

Posted on 2016.01.15 by MUSICA編集部

突如現れた革命的才能・ぼくのりりっくのぼうよみ。
未だ17歳の革命児、初のロングインタヴュー

自分のことも俯瞰で見てるというか。
なんか全部、自分のことだと思えないところがあります。
物語を読んでる感覚と同じ感じというか。
どこかゲーム感覚も凄いあるんだなと思います

『MUSICA 2月号 Vol.106』より掲載

 

■今、大学受験真っ只中なんですよね?

「です(笑)」

■大学受験の最中にデビューするアーティストってとても珍しいんですけど。そもそもデビューしたいという気持ちを持って音楽を作り始めた方なんですか。

「いや、そういう気持ちは皆無です。今もまだ実感ないくらいなので(笑)」

■現実的に1カ月後にはもうアルバムがリリースされますけど(この取材は本格的な受験期に差し掛かる前、2015年11月下旬に実施)。

「そうですね。そして2カ月後には試験があるという。どっちかっていうと、今はデビューよりもそっちのほうがヤバいです」

■そもそも音楽を作り始めたのは何歳ぐらいの時だったんですか?

「作り始めたのは高校入ってすぐくらいですね。だから2年半前くらい。それまではニコ動で『歌ってみた』みたいなことをやってたんですけど、知り合いに『ラップやってみれば?』って言われて、やり始めました。だから別に、大した意味もなく始めた感じで。当時、ニコニコ動画上でニコラップっていうカテゴリがあったんですよ。そこではみんなが普通に自分でリリック書いて自分でラップしてるので、ほんと、自分もやってみるかってくらいの感じで始めたんですよね」

■そうやって始めたところから、これはちゃんと自分の表現になるなという意識になったのは、何かきっかけがあったんですか?

「それが“sub/objective”を作った頃ですね。“sub/objective”はニコラップ始めてから半年ぐらいで作ったんですけど。この曲を作った時に、『ああ、こうやって自分が思ったことを曲にしちゃえばいいのか』みたいなことがわかって。それまでは一般的な精神論みたいなのを書いてた気がするんですけど、でも“Sub/objective”くらいから『こういうことをラップすればいいんだ』ってことがわかった、みたいな。まぁでもそれも凄い!みたいなことでもなく、自転車に乗れるようになったみたいな感じで」

■ぼくのりりっくのぼうよみは、ラップと歌がシームレスに繋がっている、両者が境目なく融合しているスタイルなんですけど。そもそもヒップホップが好きだったんですか?

「いや、ヒップホップを聴き始めたのは最近です。僕に『ラップしてみれば?』って言った人がラッパーで、当時はその人ぐらいしか知らなくて、だから“sub/objective”とか作ってた頃はラップっていうものが全然よくわからないまま、それこそニコラップカテゴリのやつをチョロッと聴いて作るみたいな、そういうレベルだったんで。全然ヒップホップって感じじゃなかったです」

■元々、音楽は好きだったんですか?

「音楽は好きでした」

■どういうものを聴いてたの?

「EGO-WRAPPIN’とかMONDO GROSSOとかUAとか、そういうのを小学生の頃に凄い聴いてて」

■小学生と言っても2000年代だよね? その世代としてはだいぶ渋いチョイスだね。

「そこは母親の影響ですね。で、中学校入ってからはずっとニコニコ動画観て、ボーカロイドとかを聴いてたんですけど」

■5年前くらいからか。ってことは、ハチくんやwowakaくんが全盛期の頃?

「そうですね、まさに聴いてました。でも主に聴いてるのはニッチ系というか、R&B寄りのボーカロイドだったりしたんですけど」

■バンド音楽とかには興味なかったの?

「僕、バンド嫌いなんですよ。嫌いというか聴けないんです、ギターがうるさくて」

■………なるほど。

「ライヴだと盛り上がるのはわかるし、カッコいいと思うんですけど、でもヘッドフォンだと近いじゃないですか。そうすると騒がしいなって思っちゃって、無理って感じなんです。それこそMUSICAとか読むんですけど、あんまり知ってるアーティストはいなくて、聴いたことのない曲のインタヴューとか読んで、『ああ、こうなんだ』みたいに思ってて」

■インタヴュー読むのは面白いの?

「全然面白いです。この人達はこういうことを考えて曲を作ってるんだ、みたいなのがわかって面白い。曲は聴かないですけど」

■人が何を考えてるかってことに興味があるんですか?

「それはありますね。あと最近は、インタヴューを組んでもらうことが多くなったので、他の人はどうなんだろう?みたいな。そういうレベルでの好奇心ですけど」

■これは勝手な推測なんだけど、音楽を凄く好きでっていうよりも、自分の中にある世界を出したいっていう欲求が強くて音楽をやってるタイプなのかなとも思ったんだけど。

「いや、僕、音楽超好きです。というか音が好きなんですよね。たとえばアーッていう音があって、そこに3度上の音をアーッて入れるだけでもハモりになるじゃないですか、それが凄い気持ちいいなっていうところを追及してるのかなって思います」

■音と音が重なることで生まれるハーモニーの美しさに惹かれるんだ?

「はい。もちろん歌詞との整合性も大事なんでバランスを取りつつですけど、でも根本にあるのはそっちなのかなと思います。聴いてて気持ちいいっていうところが大事」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.106』

Posted on 2016.01.15 by MUSICA編集部

BUMP OF CHICKEN、待望のアルバム『Butterflies』完成!
その心の奥も大切に語り尽くす
藤原基央アルバム第一声インタヴュー

アルバム単位で今の自分達を表現していく方法論は、
長くてあと2、3年とか? そんな話だと僕も思っていて。
それでもやっぱり、アルバムをつくることを繰り返してきたから、
感慨深いものがありました

『MUSICA 2月号 Vol.106』P.30より掲載

 

■12月29日です。年の瀬のお忙しい中、どうもありがとう。

「とんでもございません、お互い様です。よろしくお願いします!」

■23日にアルバムが完成したと思うんですよね。そこから6日間ぐらい経って、整理できた?

「そっか……23日は、結構深くまでマスタリング作業が続いたんですね。で、完成版は25日に受け取れるっていう話だったんですけど、マスタリング作業中に、ちょっと音が割れていたりしていたらしく、そういうのを修正する作業があったらしく……実は、マスタリングの完成版は、昨日受け取ったんだよね(笑)」

■え!? じゃあもしかして――。

「そうなの(笑)。だからなんにも聴いていないんです。……そんなこんなでここに来ちゃって、ごめんなさい(笑)」

■あはははは。ではなるべく丁寧に紐解いていこうと思います。

「僕も現時点で話せることを精一杯、話させていただこうと思います」

■まず今回、1年11ヵ月ぶりのアルバムなんです。これは、長いか短いかは明確ですよね?

「短く……ない?」

■すっごい短いですよね。

「あ、よかった(笑)。我々にしてはかなり短めですよね」

■調べてみたら、『THE LIVING DEAD』(セカンドアルバム)から『jupiter』(サードにしてメジャーファーストアルバム)までとほぼ同じだね。

「あ、そうなんだ」

■そしてそのあとは、基本、3年以上かかっています。

「はあ!……そうなんすか(苦笑)」

■『THE LIVING DEAD』から『jupiter』っていうのは、インディーからメジャーっていうタイミングでもあったし、バンドとしても若造でしたし、せかせかしていた時期だと思います。

「まさにそうだと思います」

■久しぶりに、それに匹敵するぐらいのショートタームでアルバムを出す、という。あの頃と比べてみると、今回は、自ら選択したショートタームだと思うんですよね。

「うん、そうだと思います。『THE LIVING DEAD』に関しては、『FLAME VEIN』(ファーストアルバム)っていうその前のアルバムを録って、間もなくして突然、『1週間スタジオを押さえたから、この1週間でアルバム作れ!』って言われて、わけもわからず曲を作ったの。だから最初はオケだけ作って、メロも詞もないっていう。要は楽器のアンサンブルだけで作るっていうね。あとはコード進行と構成かな。レコーディングの終盤に歌として機能するっていうことですね。歌詞もないし、メロディもない状態でレコーディングを始めていくっていう状態ですから。ドラム叩いていたって、ヒデちゃん(升秀夫)はどんな歌詞なのか、どんなメロディなのかまったく知らないわけですから。今ではまったく想像できない作り方をしていたんですけども。……その作業っていうのは自発的なものではなかったんですよ(笑)」

■その『THE LIVING DEAD』の作り方を受けて、『jupiter』は早く出したかったっていう気持ちがあったんじゃないの?

「早く出したいっていうより、納得いくまで作りたいっていうのがあって。その反動で我々はたぶん、レコーディングと曲作りに時間がかかるようになったと思うんですけど(笑)」

■そういうトラウマから来てるんだ(笑)。

「もっとアレンジメントを整理していきたいとか。当然のことだけど、詞とメロディを理解した上でアレンジをつけていきたいっていのもあるだろうし。でも前作の『RAY』から今作までは、あの頃と同じくらいのタイム感で出せてるっていうことですよね? それは自発的なものというか、自然にこのペースで作れたっていう感じがします。とはいえ、ずっと曲作りはしていたんですけど」

(中略)

■まずは『Butterflies』というタイトルはどこからきてるんですか?

「これは“Butterfly”っていう曲があって、そこからきたんですけど。アルバムのタイトルをつける時、いろいろ出てきたんだけど、なかなか『これ!』っていうのがなかったんだよね。で、誰かが言ったんだよね『“Butterfly”でいいんじゃない?』って。その誰かっていうのは、“Butterfly”っていうのが相当キてたんじゃないですかね。で、また他の誰かが、『Butterflies』って複数系がいいんじゃないかって言った時に、それもいいんじゃないかと思って(笑)。今ではとっても気に入っています」

■では、“Butterfly”という曲の話をさせてください。これは歌詞と音で、凄くいろんな解釈が生まれる音楽だなぁと僕は思っていて。まずサウンドのほうなんだけど、非常にダンサブルな曲で。ライヴを想定したような曲だとも思うし、ある意味、非常にバンドという概念を覆す音、そして同期がいろいろ入っている曲だと思うんですが、サウンド面でどうしてこういう曲に仕上がったかを教えてもらえますか?

「最初は8分のアコギのストロークだけで、そこからのスタートだったんですけど……あ、8分って、8分音符の8分ね。で、歌メロの中に16の感じがあったんでしょうね。そこから引っ張られて……なので、露骨に16の展開なんです!っていう感じではなくて、その匂いを歌メロのどこかに感じたんでしょうね。それで、そういうふうにアレンジがついていって…………気づいたらアゲアゲになっちゃった(笑)っていう感じで」

■(笑)そのアゲアゲをもうちょっと克明に話していただけますか?

「指標として、キックの4つ打ちを入れておいたんですね。別に4つ打ちでやろうとしていたわけじゃなくて、そういう指標として」

■フジの4つ打ちは定義が広いからね。土臭いブルースとしての4つ打ちとかもあるし。

「世の中で4つ打ちっていうと、もうジャンルになっちゃうもんね。僕にとっては、足踏みと同じようなもんですね。そういう解釈でやってます」

■でもこの“Butterfly”の4つ打ちは、ダンスミュージックの4つ打ちの感じに仕上がりましたよね。

「最終的にそうなりました。でもそこを目指していたわけじゃなかったのは確かです。ありのまま起こったことを話しましょうか。まず、4つを指標として敷くじゃないですか。そのあと、じゃあハット入れるか、ってなって、そこから歌のメロと一番相性がいいのがどれだろう?って、いろいろと試していって、そこからもう一度、アコギのストロークを弾くじゃないですか。そうすると、その前までは8分のストロークだったのが、16になっていて……っていうふうに、肉づけが行われていって、最終的にああいうふうになったっていう(笑)」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA2月号 Vol.106』

Posted on 2016.01.15 by MUSICA編集部

KANA-BOON、決意と進化のニューアルバム『Origin』完成!
再び強固に結びついた絆を胸に、
いざ真新しい世界に向かう彼らに迫る

「このままじゃどこにも行かれへんな」っていう、決定的な感覚があって。
音楽自体への向き合い方とか、もっと未来のことをちゃんと考えるとか、
そういうことをせぇへんともうどうにもならへん、これ以上先に進めへんなって

『MUSICA 2月号 Vol.106』P.10より掲載

 

■今日は2015年12月31日、つまり大晦日で。

「1年が終わりますね(笑)」

■ね。この1年の想いが詰まったアルバムの取材をその年の最後の日にできるのは感慨深いです。

「よろしくお願いします」

■まずは『Origin』完成おめでとうございます。これは本当に、もの凄く感動させられるアルバムでした。

「よかった、ありがとうございます。そう言われて安心しました」

■自分ではどうですか?

「『TIME』ほどやり切ったっていう感じではなくて。今回ばっかりはいろんな人の反応を聞きたいなっていう……それは作ってる時からずっと思ってたことなんですけど。このアルバムって、自分らのできる範囲の外に出てるんですよね。『TIME』の時はKANA-BOONの得意技というか、自分達も知ってるKANA-BOONのよさっていうのをたくさん詰め込んでたから、これは間違いないなって作ってる時から凄く思ってたんです。アルバムのストーリー性も見えてたし。でも、今回は4つ打ちというところからも凄く外れてるし、今までの範囲の外に出ているアルバムで」

■そうですね。ザ・4つ打ちな曲は“なんでもねだり”以外になくて、8ビートの曲が多いし、“インディファレンス”のようなドラマチックで重厚なロックもあるし、シティポップ調の“グッドバイ”もあるし。今までのKANA-BOONのイメージからは明らかにはみ出していってますよね。

「はい。だからこれが受け入れられたいなっていう気持ちですね」

■私はこの音楽的バラエティもそうだけど、何よりもここに音楽化されている想いと決意に心を揺さぶられました。『TIME』もこのバンドの想いやストーリーがちゃんと作品化されたものだったけど、これは前作よりも踏み込んだところで『TIME』以降に顕在化したであろう鮪くんの心情と葛藤、そして決意が音楽として表されていて。それが、このアルバムを凄く深いところで聴き手を感動させる作品にしているんですよね。

「そう言ってもらえると嬉しいですね」

■歌詞は今までで一番苦労したっていう話も聞いてるんですけど。

「はい、ちょっと時間がなくて。前々から『早よ書いとけよ』とは言われてたんですけど、なかなかモードに入れずズルズルやってたら予想通り大変なことになってしまい」

■でもさ、時間がなかったのは『TIME』の時も同じだったじゃない? 

「そうですね。でも今回のほうがキツかったですね」

■古賀くんが「前は俺が4時間くらいギター録ってる間に鮪が歌詞書き上げてたんだけど、今回はギター録りに1日かけてもまだ上がってなくて。今回は凄くいろいろ考えてるんやと思う」って話してくれたんですけど。

「(笑)そうでしたね、だから歌録りを遅らせたりもして。……『TIME』の時は、歌うことが大体どの曲もはっきりしてたんですよ。でも今回はサウンド的にも一歩踏み込んだところに行ってるから、この曲はどういうテーマなんやろとか、そういうところを探すのに割と時間がかかって」

■音楽的にも今までとは違う挑戦をしているけど、言葉自体も、今までよりも踏み込んだものがとても多いよね。

「はい。今まで歌ってきたことは『TIME』で綺麗に全部歌えた実感はあったんで。だから今回は、その上で今どんなことをテーマにするのかっていうことを考えたんですけど。“インディファレンス”とかは特に、やっと言葉にできるタイミングが来たなという感覚やったし。他の曲もいろいろそういうところがあるんですけど、ちゃんと今のタイミングでメッセージとして出したいことを書き切れたのはよかったです」

■つまり歌詞のテーマとしても、『TIME』でひとつ結成からデビューして大舞台へ立つというバンドの物語は歌い切って、次の段階へと進むべきタイミングだったし、自分自身が進みたいと感じたタイミングだった。きっとそういう意識があったから時間かかったんじゃないかなって思うんだけど。

「そうですね。あと責任感というか、歌詞でもうちょっと曲を昇華させてあげないとっていうのもあったかもしれないですね。今回ギターが頑張って新しい部分を鳴らしてくれたんで、僕は僕でちゃんと、この曲達を今までよりも1歩進めるっていうことをやらんとなって」

■ラス前に“スタンドバイミー”という素晴らしい曲があるんですけど、この曲が今回のアルバムの背骨というか、最も芯の部分にある原動力であり、今のKANA-BOONのテーマを象徴している曲だと思うんです。

「はい、その通りです。最初に歌詞を書き上げた曲ですね」

■で、そのテーマは何かと言うと、「失ったあの頃の自分を取り戻すこと」で。“スタンドバイミー”ではそれをダイレクトに歌った上で、そのためにもう一度信じて飛び出していこうという決意を歌ってるんだけど。鮪くんは前号のウチの総括アンケートで、「デビューからここに辿り着くまでに失ったものを来年は取り戻しに行きたい」とはっきり書いていたけど、そういう話は10月の『talking』の取材の時にもしていて。やっぱり、その気持ちが今回作っていく中では凄く強かったんだね。

「強かったですね。一番最初からそういう気持ちでアルバムに向かったわけではないんですけど、でもこの歌詞を書く前にメンバーと話して、これからどうしていきたいかは明確になって。失ったものを取り戻していくとか、また原点に立ち返るんやっていうことがはっきり見えたから、だからアルバムもこういう結果になったんですけど。そのアンケートのことも、“スタンドバイミー”がもうできてる状態やったからこそ、はっきり書けたことやったと思います」

■「失ったものを取り戻しにいくんだ」っていう気持ちが生まれたのはいつぐらいからだったんですか?

「はっきり言葉にしてメンバーと共有したのはほんまに最近、メンバーとみんなで飲んだ時にそういう話をして」

■『talking』の取材で話してくれたよね。たしか10月くらいだったっけ。

「それくらいかな。やっぱりデビューして以降、バンドの中でいろいろ差は出てきていて。その中で僕自身は凄く寂しい気持ちと『なんでもっと追いついて来うへんねん』っていう気持ちと、『もうちょっと自分が周りを見てあげないといけないのかな』っていう気持ちと、いろんなものが混ざり合ってたんですけど、そのすべてをメンバーに話したんですよね。そしたらメンバーも同じようにその距離は感じてて。で、そういう距離感があるのはあかんやろって話になって、ちゃんともう一回横並びになろうっていう話をしてまとまった感じですね。そういう気持ちはデビューしてからずっと積み上がってきたものやったんですけど、その話し合いでひとまず解消できたから凄いよかったなと思います」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.106』