Posted on 2014.09.19 by MUSICA編集部

神聖かまってちゃん、音楽的達成と転換期の葛藤の間で
の子が揺れる

過去の自分はもういないんです。今の自分しかいないんです。
思い出っていうものはあるかもしれないですけど、
今の自分をいかに見つめて鍛えて飢餓感を持って次のことをやれるか。
それしかないですよね

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.106より掲載

 

■本当に、素晴らしい作品がっ!

「ははははは、なんですかその始まり?(笑)」

■いや(笑)。今回のアルバムは名曲の揃いっぷりもそうだけど、バンドの演奏含めて今までよりも格段に音楽的完成度の高い作品に仕上がってて。

「まぁこのアルバムの出来っていうのは、神聖かまってちゃんとして、4人だけじゃなくサポートの人やエンジニアさんも含めたチームとして、一歩一歩完成していってる過程が出てると思います。まだゴールじゃないですけど、でも今のライヴの出来もかなり完成されてますし」

■の子くんにとっては長年の間、バンドでレコーディングすると自分のデモの世界観通りにならないっていうのが最大の葛藤だったわけじゃないですか。でも、今回こそはピタッとハマッた感があるんじゃないかなと。

「ピタッとでもないですけどね。でもなんだかんだ、このアルバムができた時は、今まで以上にピタッとハマッてるっていうのは感じました。とはいえデモのほうがいいっていうのは相変わらずありますけどね」

■そうなんだ。の子くん的にも今回こそは音楽的に満足が行く作品になったんじゃないかと思ったんだけど。

「音楽的にはそうですね。音楽的にはスキルが上がってレベルアップ感はあります。そこは感じてます。けど……満足かって言ったら満足ではない。まぁ満足じゃないもん出すなって前から言われますけど(笑)。けど、ほんとのこと言うとそうなんだよな。もちろんマスタリングした時は当然満足してますよ。でも時間経って聴くとまた違うじゃないですか」

■まぁ多くのアーティストは作品を作り終わって時間が経つと、ここはもっとこうできたのにな、とか出てくるものですよね。

「そうですね。だから僕の場合、これは70点とか」

■の子くんにとっては、このアルバムはどういう作品なんですか?

「アルバム単位で言うと、最初は打ち込み寄りにしたいっていう意見を持っていったんですよ。それは楽曲が打ち込みに寄ったという部分と、そもそも僕は打ち込みな人間なんで。言ったらもう、ベースとドラムも完全に打ち込みでいいんじゃねぇか!くらいの人間なんで」

■でも実際は、打ち込みの強い曲とバンドサウンドの曲と、バランスよく入ったアルバムになってるよね。

「はい。やっぱそんなこと言っちゃったら元も子もないじゃないですか。『今回のアルバムは打ち込みを全面に出したいからおまえら休んでろ』とか言ったらメンバー絶対辞めちゃうんで。で、そこを上手くまとめてくれるのがエンジニアの(萩谷)真紀夫さんで、『じゃあ打ち込みとバンドを上手くまとめて』っていう案を出してくれたんです」

■なるほど。でも、そこに対してメンバーも頑張りましたよね。バンドの演奏が上手く行っているというのは、の子くんも感じてるんでしょう?

「はい。正直そこは本当に進歩したとは思ってます」

■去年の子くんが自分のソロで神聖かまってちゃんの曲を違うメンバーとセルフカヴァーするという斬新な手段に出て、しかもライヴも含めて素晴らしい音楽作品を作って。ただ、あれはメンバーからしたら屈辱的だったと思うんだよね。だって、自分達の演奏と比べざるを得ないし、その差ははっきりと提示されちゃったわけじゃないですか。

「まあ、そういう目的もありましたからね」

■やっぱあったんだ。

「ありました、当然ですよ」

■もの凄い荒療治だけど、それは功を奏したのかもしれないね。

「そうですね。だからメンバーはメンバーで、いろんな闘い、葛藤があると思います。僕に対すること然り、それぞれの人生然り………まぁでも、その演奏面での進歩っていうのは、年季がモノを言ってるだけだと思うんですよ。やっぱりもう何枚も作ってきて、レコーディングの仕方もいい加減に学びましたしね。ウチら最初は何も知らなかったですから。それがエンジニアの真紀夫さんとかサポートの人の力もあってようやくまとまったというか。だから断じて4人の力だけではないんですよ」

■相変わらず手厳しいね。でも年季やサポートの力はあれど、そもそもの4人が音楽的にちゃんと成長できてる感じがするけどな。

「ま、大人になってるんじゃないですかね」

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text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.19 by MUSICA編集部

赤い公園、奔放なる音楽との戯れと確信

突拍子もないことはしてないなって思うんです。
逆の言い方をすれば、
自分達が今までやってきたことに対する説明も、
これで全部つくと思う。
やるべきことが全部できた清々しいアルバムです

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.80より掲載

 

■この『猛烈リトミック』は、メロディにしろ音にしろ感覚にしろ、米咲ちゃんの中にあるものが淀みなくそれぞれの楽曲として結実したアルバムだなと感じました。つまり音楽家としての津野米咲の中に渦巻く美しいカオスのすべてが、赤い公園というバンドを媒介にしてとても素直に音楽として結実したアルバム。ご自分ではどう思いますか?

「自分でも思いっ切りできたと思っています。今までわざわざ回りくどいことをしていたという意識はないんですけど、でも、より意識しないようにすることで、元から持っていた我々のどうしようもない回りくどさが出たかなって(笑)。全部が摩擦0の状態で放出された感じ……それがたぶん素直ってことだと思うんですけど。自分としては『もの凄くいいものを作るんだ』という曖昧な、かつハンパない熱量の情熱を持って音楽を作るっていうことを、最後まで途切れずにできたアルバムだなという手応えがあって。それは完成して聴いていても思います」

■何処にもリミッターをかけずに思い切りやり切ってるよね。

「そう! 何をやってもいい、やっちゃいけないことがない、なんも怖くない!っていう謎の無敵感みたいなものを、録ってる段階からひしひしと感じながら作ってましたね。ほんと無敵状態だった、ふふふ。あと、この15曲でやってることはすべて説明がつくんですよ」

■それはつまり、自分の想い描いた通りに、ちゃんと必然性を持って、楽曲として完成形まで持っていけたということだと思うんだけど。

「はい。だから突拍子もないことはしてないなって思うんです。だから逆の言い方をすれば、自分達が今までやってきたことに対する説明も、これで全部つくと思う。その上で、ただただすべて猛烈に気合いが入ってるという(笑)。やるべきことが全部できたっていう清々しいアルバムです。凄く鮮やか。だから思い残すことがあんまりない」

■曲を作るってことに関しても、それを表現するってことに関しても、とても自由になったと思うんですよ。どうしてこうなれたんですかね。

「それはもう、本当に“NOW ON AIR”っていう曲がすべての扉を開いてくれたんだと思います。なんとなくこういう感じでアルバム作ろうかなっていうプレイリストを組んでた時に、どうしても足りないものがあると思って。それで書いたのが“NOW ON AIR”だったんですけど。いろんなラインの曲がある中で、とにかく太陽の光みたいな――ライトの光じゃなくて、翳る時もあるし、昇って沈んで私達に見えない時もある、でも常に凄く巨大な光を持っている太陽のような存在が欲しかったんですね。そう思って“NOW ON AIR”っていう楽曲を作って……これができたことによって他の曲達も、音に関しても歌詞に関しても、すべて曲が本来行きたがってるところに思い切り持っていくことができたかなって思います」

■ということは、“NOW ON AIR”を作った時には他の曲はできていた?

「そうですね。デモとしては揃ってて、一番最後に作ったのが“NOW ON AIR”だったんですけど。とにかく歌の力がすべてを引っ張っていく曲にしようと思って。で、そういう曲を作るためにはどうしたらいいんだろうって思って――私、いつも打ち込みで作るから、どうしても癖があるんですよ。鍵盤で叩くドラムの癖とかベースの癖があって。でもこの曲を作るにあたっては、それが要らないなと思って。それで『私はちょっと頭で考え過ぎだな、よし、体を動かそう!』と思って、デビュー前にプリプロとかでお世話になってたスタジオにひとりで行って。まずドラムをなんとなく1曲分叩いて録ってもらって、その後にベースを借りて『なんか、ぽい!』みたいな感じで1曲丸々弾いて、その後ギターも『ベースがこうだったらこう!』みたいな感じで弾いて、最後、マイクの前にメモ帳もなんもない状態で立ってスッと歌ったら、このメロディとサビ頭の<レディオ>っていう言葉が出てきて……その段階で『できたな』っていう感じはありましたね。要はひとりセッションみたいな状態なんですけど(笑)、凄く自分らしさを感じて。自分がずっと大好きでルーツになっている日本の歌のメロディも出てるし、同時にとても赤い公園っぽいなとも思ったし。で、何より演奏がシンプル――私が実際に弾いたり叩いたりできることなんて限界があるから、シンプルで当たり前なんですけど(笑)、でもシンプルな演奏の上に自然に出てきたメロディが凄く強力なものだったのが凄く嬉しくて。それでみんなに聴かせたら、ウチのバンド割とネガティヴなのに『この曲はほんとにいい曲だ!』っていう反応で。そういう曲ができたことが、今回のレコーディングを円滑に進められた大きな要因かなと思います」

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text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.19 by MUSICA編集部

アルカラ、さらに大きく結実した狂騒のスペクタクルロック

横断歩道を白線の上だけ歩いて渡るような――
なんでも自分でオモチャにして、勝手にルール決めて、
目の前にあるすべてを面白くする。
文化とか芸術ってそういうものなんかなって思えたんですよ

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.112より掲載

 

■えらい真っ向から挑んだ力作というか、歌謡とパンク、物語とフィクション、衝動と技巧性という相反するアルカラの持ち味がバランスよく出てる作品だと思って聴かせてもらったんですが。

稲村太佑(Vo&G)「そうですね。前作の『むにむにの樹』がおとぎ話をテーマにしてたので、それと真逆というか。あれはおとぎ話っていうだけあって、幼い感じを見せながら人間の本質を見せていこうっていう感じやったんですけど。今回はそういうフィルターをあんまりかけずに、素直にロックをやってみようっていうのが最初のきっかけで――前回のインタヴューで『アルカラっていうバンドは東京ディズニーランドのような遊園地だ』っていう名言をいただきましたけど」

■そうでしたね。表向きはもの凄く楽しいエンターテイメントだし無邪気なファンタジーのようだけど、裏側から見ればもの凄くストイックな精神性や完璧に練り上げられた世界観に支えられているからこそっていう。

稲村「そうそう。そういうバンドとして幅を広く出していくべきなんじゃないかっていうところで、歌詞とか雰囲気でふざけた部分を見せる曲もありつつ、意外とそういう曲に関しては演奏面でストイックなことをやってたりして。その両面性が、今までの作品と対比してもより見せられるような作品になっていったというか。……最初は単純に『カッコいいものを作ろうぜ』みたいな感じだったよね?」

田原和憲(G)「うん。前作との対比があればいいなって感じから始まって、作っていくうちにどんどん固まっていった感じですね」

下上貴弘(B)「前は1枚でストーリー性があったんですけど、今回は1曲1曲にストーリーがあって、それが繋がってるというか。フレーズ作りに関してもしっかり分けてヴァリエーションが作れたかなって思いますし、ロックな部分や歌っぽい部分も上手く詰め込めれたかなって」

疋田武史(Dr)「同じアルカラでも前作とは違う顔が見せれたっていうか。自分なりのロックが今作では表現できたかなと思ってます」

■その「自分なりのロック」って具体的にはどんなものでした?

疋田「本当に個人的なことなんですけど、8ビート感があるのがロックなイメージなんですよ。で、今回はベースとドラムで16分の感じがあって。ふたりでは細かく取ってるのに、全体で聴いてみると8ビートみたいに大きく聴こえるようなリズムだったりして、そういう遊びができているっていうのは自分なりのロックの表現なのかなって思います」

下上「なんか『16に聴こえない16ビート』感みたいなのがあって。意識したわけじゃないんで、なんでかって言われるとわかんないですけど(笑)。でも、前作との対比を考えてたのもあったんですけど、結果的にそれ以上に自然に出てくるもの、自分達からナチュラルに出てきたものを曲として作っていくっていうスタイルになっていって、ベースとドラムに関しては、8ビートっぽいんですけど16みたいな感じっていう。単純に聴こえるけど単純じゃない遊びみたいなものになったなと思います」

■うん。今みなさんがおっしゃってくれたことが凄く大きい気がしていて。難しいことを如何にそう感じさせずに聴こえさせるか、単純なことを如何に面白く聴かせるか。そういう逆説的な遊び心のあるロックがアルカラだと思っていて、そういう部分が今回の作品は凄く聴こえてくる気がするんですけど。

稲村「結局、僕は聴いた感じでわかりやすい音楽っていうか、『なんかオモロいな』っていうのが好きなんですよね。まぁ、ある程度デフォルト化されたものも別に嫌いじゃないし、そのデフォルトから外れてるものでも全然ワケわからんなって思うから。そういうのって同じ匂いがしてて、結局、アルカラの曲ってそういう匂いがしてるんだなって僕は思ってるんですけど。まっすぐ赤を赤と見せたり、白を白と見せるだけやったら、掘り下げる側としては面白味がないなって」

■「素直にカッコいいロックをやってみよう」って作り始めた作品が結果的にそういうものになっていくのが、如何にもアルカラらしいよね。

稲村「たぶん、僕が曲とか掘り下げることが好きなタイプやからなんでしょうね。どういう音を使ってるんだろう?とか、どういう音階を並べてるんだろう?とか、その瞬間瞬間のハーモニー的なものが繋がっていって曲になっていくわけじゃないですか。そういう分析的な感覚で言ったら、『無駄に難しいことしてんな』って思うところもいっぱいあるんですよ。でも、全部通して聴くと素直に聴こえるというか。そういう好きなことが今回はできたんじゃないかなと思いますけどね」

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text by 寺田宏幸

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.18 by MUSICA編集部

クリープハイプ、初のホールツアー埼玉公演密着&
来たるべきアルバムを語る!!

フェスシーズン真っ盛りの8月から9月にかけて、
敢えて孤独なるホールツアーに打って出たクリープハイプ。
8月19日大宮完全密着、
さらに、来たるニューアルバムの中から6曲を聴いた! 話した!!

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.28より掲載

 

 基本、密着というのはメンバーが楽屋に入るところから始めるものであり、今回も同じように楽屋入りの時間を訊くと、「15時頃になると思います」とのこと。

 これ、相当遅い時間なんです。もちろん、それぞれの違いはありますが、18時~19時にかけてライヴを始める場合、大抵の場合は13時までには楽屋に入るもので、15時と言われて2度、時間の確認をしました。しかし何度訊いても15時。よって15時10分前に楽屋に入りました――。

 大宮周辺で迷ったらしく、少々遅れて楽屋入り。入ってくるなり、ヴォーカルの尾崎世界観が「後で聴かせたいものがあるんですよ」と笑顔で言ってきた。もしかしてと思い、「新曲? だったら、実はここに来る前に6曲聴かせてもらった」と話すと、「えぇぇぇーーーー! なんだ。感想もらいたい曲が具体的にあったから、目の前で聴いてもらおうと思ったのに」と、残念がる。この件は後述するが、何しろ素晴らしい曲ばかりだった。ユニバーサルに移籍してから、シングル曲だけでも随分と曲のクオリティが上がってるが、来るべきアルバムに入るであろう新曲達も、それぞれ面白い表情の曲ばかりで、インディーズ時代、そしてメジャーデビュー時に勝るとも劣らないスリリングさを感じたというニュアンスを話すと、今度は「どの曲が強かったか?」という具体的な話を訊いてきた。

 しばしそんな話をしていたら15時25分、スタッフを含めた全体ミーティングが、彼ら4人の楽屋で始まった。

 スタッフが進行するが、要約すると――「ツアー5本目にして初めて晴れた」と。そして「関東はあと4本ライヴがある」と。さらに「ツアーも進んできたので、この辺りからセットリストをいじくろう」と。そこで具体的に「尾崎がアコギを持ったコーナー辺りのセットを変えてみよう」と。

 変化を起こすのはセットリストだけではなく、演出面も同じで、メンバーも「大丈夫?」と心配するほど、かなり大胆にステージセットの動きなどで変化を試すと。その結果、リハーサルで試す曲が増えると。ではさあ急ごう!ということでミーティングが終了。

 よって、サウンドチェックが一番初めのドラマー小泉は、ご飯を食べれずにステージへ向かうことになった。

 楽屋で尾崎と雑談をしながら、楽屋入りがとても遅いという話をすると、「あー、そう言われればそうかもしれないけど、そう、無駄な時間が嫌なんですよ、ライヴの前なのに。だからギリギリに入らせてくださいってお願いはしてます」と言う。とても尾崎の本質を物語る動きだ。

 雑談をしながら、隣でご飯を食べているギターの小川に「味噌汁すする音が、今日もうるさいよ」とサディスティック全開に文句言ったりしながら、様々な話をする。今のシーンの話、若いキッズの音楽に対する思い、ダウンロードミュージックについて。一貫して尾崎が思うのは、いい音楽がいい音楽として聴かれる環境、そして個性的な音楽が個性的に聴かれる環境を、もっと確かなものにしたいということ。均一的な音楽が生まれやすい理由が、シーンや音楽流通や音楽の聴き方の中にあり過ぎるということ。そして今年はいっさい参加しなかった夏フェスがどうなっているのか?を僕にいろいろと訊ねてきた。どう見ても1年で一番のフェスシーズンに、敢えて単独ツアーを行っているのは、尾崎の意志が強いのだろうが、しかし、やはりフェスシーンがどうなっているのかがとても気になっているようだ。「そういえば、今日、NICO(Touches the Walls)の武道館ですよね。ソールドしたみたいでよかった。みっちゃん(光村)、頑張って欲しいな」と話しながら、がらんとした楽屋を見渡している。

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text by 鹿野 淳

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.18 by MUSICA編集部

SiM、
「俺達は何と闘っているんだ? ロックとはなんだ?」
――威信と野心を懸けて新境地に挑む

MAHというキャラクターがひとり歩きしてしまって、
「ロック観」がわからない子達が
凄く安易に近づいてくるようになっちゃったんです。
そういう人達に、本当の自分、本当のロックを見せたい
っていう気持ちが凄く強まってるんですよ

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.68より掲載

 

■強烈な絶叫やEDM的アプローチもありつつ、MAHさんのルーツにあるレゲエやダブに重心が置かれた、徹底的に飛んで潜れる作品だと感じて。

「ああ、ありがとうございます。今回は、レゲエやスカっていう、自分達の根幹にあるものを今までよりもさらにわかりやすく出した上で、最近のSiMっぽいダブステップやエレクトロな要素を入れて。それをお客さんに提示したら、どういう反応を示すのか?――そういう、実験的な6曲っていう感じですね。10年やってきたし、『PANDORA』の作り込んだ流れ、世界観もひと段落したし――そこから次のアルバムに向けて、曲の方向性が四方八方に散らかってもいいから、レゲエやスカに重点を置きながらいろんな曲を作ってみてもいいかなと思ったんですよ」

■『PANDORA』っていうのは、ラウドロックとの差別化や音楽性の深さをハッキリと示したアルバムだったと思うんですよ。要するに、MAHさん達がやってきたことがキッチリと結実した作品だったと思うんですよね。

「うん、そうですね」

■それをより深くやろうとしたっていうことなんですか?

「元々、少しUKっぽい湿り気のあるレゲエとロックを結成当初からやっていたんですけど、そこから一度『SEEDS OF HOPE』でラウドロックの方向に振り切って、『LiFE and DEATH』っていうアルバムでダブステップの要素とかも取り入れ始めて――で、『PANDORA』で、もっと広い意味でのロックバンドなんだっていうことを示せたんですよね。そこで、自分が思い描いていた1セクションが終わった感じがあったんですよ。だから、今回もなるべく、今流行っている『ズクズン系』のメタリックなリフは意識的に取り入れないようにしていて。なるべく、僕らが聴いて育ってきたルーツ――レゲエやスカと共に、2000年代初頭くらいまでのヘヴィロックやニューメタル感もより入れていこうっていうヴィジョンは『PANDORA』以降から強くなったんですよ。だから、極端なブレイクダウンは今回も入れてないし。……まぁ、SiMのメンバー自身、ひとりもアホになれるタイプの人間じゃないっていうのもあって、それぞれが好む音楽やルーツを深く出そうとすると、どうしてもドロドロした世界観になっていくのかもしれないんですけどね(笑)」

■“GUNSHOTS”みたいなスカナンバーでも、根底には結構ダークな世界観がありますよね。今的な「踊る」とは違うノリがあって。

「ああ、そうですね。そもそも、こういうラウドでヘヴィな音っていうのは、そういうドロドロした世界観を表現するためのものだって思ってるところもあるんで。やっぱ、俺らにとっての音楽の楽しみ方っていうのはそういうところだと思うんですよ。それが俺らにとってのチルというか、浄化というか――いわゆる『踊って楽しもうぜ!』みたいな感じとはちょっと違うんですよね。ライヴではそういう言葉を使ったりもするけど、音楽を作る上では、こういうダークなものにはなっていきますね」

■チル、浄化とおっしゃいましたけど――つまり、自分達が音楽によって心を解放されてきた、その感覚に忠実なものを今こそドバッと出せるようになってきたのが今作だということですよね。

「そうですね。そもそも『PANDORA』のレコーディングは去年の1月に終わっていたから、レゲエとかの世界観を強調したいっていう意図は、1年前くらいから強くなっていたんですけど」

■去年1年間で何を感じて、そういう意図が生まれたんですか?

「やっぱり、フェスとかの30分~40分くらいのセットで曲を並べていくと、ここまでMVにしてきた曲――勢いのある、キラーチューンと呼ばれるような曲ばかりを優先することになってしまって。SiMなのに、『ズン、タン』っていうストレートなものだけになっちゃってると感じたんですよ」

■現場レベルで、本来の音楽性をなかなか出せずじまいだった。

「そう。要するに、レゲエ感とかが全然ないバンドになっちゃってて。だから、今回の作品では“Fallen Idols”とか“GUNSHOTS”みたいな、スカやレゲエを思い切りフィーチャーした曲でMVを撮ったんですよ」

■なるほど。どちらもミクスチャー感が凄く強いし、これまでSiMがMVを撮ってきた楽曲とは明らかに違うアプローチでロックしてる。

「そう、そう。“Fallen Idols”にはバリントン・リーヴァイ(80年代初期を代表する、レゲエシンガー)の“Black Roses”っていう曲の有名なリディムを使っていて、“Slim Thing”のイントロではウェイン・スミス(1985年にデビューしたジャマイカのシンガー。レゲエトラックのデジタライズ第一人者)の“Sleng Teng”のリディムを使ってて――要するに、レゲエの『二大・有名なリズム』と言えるようなものをフィーチャーしてるんですよ。で、わざと作品のタイトルもBad Brains(80年代のアメリカで、ハードコアにレゲエの要素をミックスしていった先駆者的バンド)のアルバムと同じものにして。それくらい深い音楽性を持ってるし、ちゃんと音楽のルーツを消化した上でやってるんですっていうのを見せるタイミングだったんですよ。『レゲエパンクとか言ってるけど、全然レゲエじゃねぇじゃん』っていう見方もあったかもしれないけど、『いやいや、ちゃんと深く掘ってますよ』っていうのをわかりやすくやったんですよね」

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text by 矢島大地

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.18 by MUSICA編集部

横山 健、
激しく揺れ動いた人生の証、
そして2014年のロックと自分を語る

自分が今まで作ってきたアルバムとか、
Hi-STANDARDを含めた実績や地位、お金とか、
何の役にも立たないんですよ。
自分の生活を潤わせてくれるのは、
新曲と、手元で鳴ってるギターだけなんです

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.74より掲載

 

■まず、新曲が素晴らしい。今回はドキュメンタリー映画のDVDがメインではあるんですが、一緒についてくる新曲の“Stop The World”が本当にいい曲で感動しました。

「お、いきなりそっちですか。ありがとうございます!!」

■3拍子で、世界の争い――たとえばガザ、ウクライナ、アフリカの内戦、日本と中国と韓国――その全部を含んで嘆いている、「反戦ソング」と言ってもいい曲だと思うんですけど。

「そうですね。歌詞のない状態で、曲は去年からあったんですよ。もちろん、それは『Ken Bandの次のアルバム用に』っていう気持ちで書いたんですけれども。だけど、『アルバムの中の1曲』って考えると、ちょっと変わってるのかな?って思ってたんですよね」

■変わってるっていうのは、ワルツ的なビート感も含めて?

「そうです、やっぱりビート感が大きかったですね。歌詞を書く前から、あの曲に当てていくべき世界観がちょっと違うなって。それで、今回のDVDを出そうとなった時に、映画の公開から1年近く経った今、新しい要素も足したいと思って、思い切って新曲をつけてみようと。それで、『この曲しかない』という感じで、今回のDVDにつけることになったんです」

■健くんは今までもたくさんの闘争ソングがありますが、こういう明確な反戦ソングを歌う意味って、どういうふうに考えているんですか?

「……確かに今まで、ここまで明確な反戦ソングは僕にはなかったと思うんですよ。やっぱり、3.11以降いろんなことが身近に表面化したし、メディアも繋がりやすくなったし……それによって、大殺戮がすぐ目の前に見えるようになったじゃないですか。そういうことが、みんなにとって『他人事じゃないぞ』っていうふうになったと思うんですよね。だから、僕がこのタイミングでこういう歌を歌うのは、凄く自然だったんですよ」

■3.11があって、『Best Wishes』を作ったよね。あの作品の“This Is Your Land”という大切な1曲で、健くんは国旗を纏ったじゃないですか。

「はい。そうですね」

■このDVDの内容も、その中での健くんもそうなんだけど――日本っていう国は、3.11以降で失ったものと魂の内戦をしていると思うんですよ。だけど、この“Stop The World”は明らかに外の世界へ目が向けられている。つまり、国旗を纏ったところから明らかに次のフェーズに行っているという気がして。そこにハッキリとした自覚はあったんですか?

「うーん……自分にとってはそれが自然なことだった、としか言えないんですよね。……メンバーも最初はこの歌詞を見た時に『そこまで言っちゃうんだ?』って驚いてましたけど、『Best Wishes』であそこまで変わった自分を出して、それを持って回ったツアーで感じた手応えがあって――それを形にしたらこうなるっていう気持ちだったんです」

■これは必ずしも一極化してるっていう話ではないんだけど――音楽の今を考えると、「震災が起こりました、悲しみと救済を歌にしましょう」っていう時代は終わって、「もう一度、HAPPYとLOVEに目を向けていこう」っていう対極的な流れが生まれていると思うんですよ。世の中に対して言いたいことはあるけれど、だからこそ音楽はハッピーにいこうよっていう。でも、健くんはここで改めて気が引き締まることを歌ってる。それが「らしいなぁ」と思うと同時に、やっぱり異端だなと思ったんだよね。

「はい(笑)。僕も、その『対極の流れ』は見えてるし、こんな時代だからこそハッピーな音楽を、っていうのもわかるんですよ。だけど――僕の思うロックっていうのは、やっぱりこれを言っていくことなんです。異端だと言われることも凄くわかるんですけど、僕にとっては『当たり前のこと』で。『Best Wishes』からここに至るまで――少なくともこの曲までに関してはそういう想いが強かったんですよね」

■この“Stop The World”はBPMが遅くて、歌のためにある曲だと思うんですよ。そういう曲が出てきたっていうのは、健くんのどういうモードを表してるんだと思いますか?

「………それが、普段だったらもっと自分の曲のことはわかるんですけど、この曲に関しては、どうして出てきちゃったのかが全然わからないんですよね。だけど、歌っている内容にしても、今後自分にとって大切な曲になっていくとは思うんです。こうやってレコーディングしてみても面白い曲だと思うし……うん、だから、こうして1曲だけ録ってみたんだろうなぁ」

■今回のDVDは、言ってみれば健くんのライフストーリーじゃないですか。そのエンディングの、さらなるエンディングみたいな曲にも聴こえてくるんだけど――そういう意志とは別に生まれてきたものなの?

「あぁ……でもたぶん、あの映画の持つ世界観を曲として具現化したいっていう想いもどこかにはあったのかもしれないですけどね」

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text by 鹿野 淳

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.17 by MUSICA編集部

KANA-BOON、夢を叶えた野外ワンマン
「ヨイサヨイサのただいまつり! in 泉大津フェニックス」密着!!

「僕らがあなたの夢になります」――
デビューからたった1年にして
1万6320人熱狂の初野外ワンマン大成功!
4人の夢、ロックバンドの夢を実現させた
KANA-BOON、その1日に完全密着!

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.18より掲載

 

 雨が多く心配されていたお天気も見事に晴れ、抜けるような青空から夏の強い陽射しが降り注ぐ快晴に恵まれた8月30日(土)。KANA-BOON初の野外ワンマン「ヨイサヨイサのただいまつり!」の会場である大阪は泉大津フェニックスにメンバーが到着したのは、10時55分のことだった。車から気合い十分、元気よく降りてきたメンバーは………嘘です。いや、気合いは十分にあっただろうけれども、車から降りてきたメンバーは、古賀以外、みんな明らかに眠たそうだったのである。

谷口「なんかワクワクしてしまって、全然眠れなかったんです………」

飯田「僕もほとんど眠れへんかった………」

小泉「僕は2時間おきに起きちゃって………」

 と、鮪・飯田・こいちゃんが若干目をしょぼしょぼさせながら異口同音に眠れなかったと告白する中、古賀だけはシャッキリとした明るい表情で「俺はばっちり眠れました。というか12時間も寝ちゃいましたよ! 昨日リハが終わった後でスタッフもみんなでバーベキューをしたんですけど、それでお腹いっぱいになったんでそのままスッと眠って、朝までぐっすり。暑いけど気持ちいいっすね! 晴れてよかったわぁ」とテンション高く話してくれる。ほんと、性格が出るにもほどがある、という展開(笑)。

 この日の開場は14時だったので、その前にサウンドチェックとリハを完了させなければならない。とはいえ、まずは何はともあれ腹ごしらえということで、こいちゃん、飯田はケータリングブースへ。ズラッと並んだ美味しそうなブランチメニューを前に、意外にもかなり小食なセレクトをしたこいちゃん。どうやら去年のフェスでケータリングブースに浮かれてライヴ前に食べ過ぎてしまった経験を活かし、今年は各地のフェスでも少なめのチョイスに押さえているらしい。対して、ケータリングのお姉さんに乗せられてかなり大量のおかずを手に楽屋へと戻っていく飯田。その後の楽屋では、いつまで経ってもなかなか食べ終わらない飯田を、鮪と古賀が「休み時間が終わっても給食を食べ切れずにひとり食べている友達をからかう小学生」のようにいじるというコント的光景が、別に誰に見せるわけでもなく展開。このバンド、ふとした瞬間にこういう根っからの大阪人っぷりをよく発揮するのです。

 ただいまつりの会場は翌日に行われるRUSH BALLの会場と同じで、ステージもバックエリアも装飾だけ替えるとそのままRUSH BALL仕様になる。つまり、翌日のフェスではたくさんの出演アーティストが集う、気持ちよく育った緑の芝生の上にいくつものパラソルやテーブルが置かれ、たくさんのプレハブ楽屋が並ぶバックエリアを、この日はKANA-BOONが独り占め。「なんか今日はここが全部独占できるって、気持ちいいですね」とこいちゃんがにっこりと笑う。

 11時30分くらいから、楽屋では鮪がなんとなく発声練習をやり始める。♪ウ~~(低音)~~ウォア~~(高音)~~♪と高低差の激しい声を繰り返し発声し、喉を開いていく。……と思ったら、そのまま何か歌い始めた。大瀧詠一による作詞作曲のポップソング“夢で逢えたら”だ。数時間後には1万6000人のオーディエンスを自らの夢の舞台に迎えようとしている鮪が、<夢でもし逢えたら 素敵なことね>と歌っている。なかなかにいい光景だ。

 フィールドを一通り回ってみる。ただいまつりは彼らの初野外ワンマンであると同時に、その名の通りメンバーがプロデュースする「お祭り」でもあって、会場の後方にはKANA-BOONにまつわる様々なブースや「わ・わ・わなげたいな」(輪投げ)、「スーパーブーンすくい」(スーパーボール掬い)といった縁日的アトラクションなどが用意されている。その一角に、飯田画伯による絵の展示ブースやご当地グルメワンマンツアーでメンバーが書いていたグルメ絵日記を飾るブースと並んで、KANA-BOONが育ったライヴハウス「三国ヶ丘FUZZ」のブースが。覗いてみると、デビュー前の様々なフライヤーと共に、2011年8月にFUZZで行った初ワンマンの時のライヴ写真が飾られていた。この時はまだ飯田は加入していなかったのだけど、鮪も古賀もこいちゃんも今よりもとても若いというか、本当にまだ少年で、ちょっとびっくりした。もちろん今も若いけど、3年前とは思えないほど面構えが違う。ちなみに、そのライヴ写真は遠くのステージとちょうど向かい合うようにして飾られていた。この時の彼らが今のKANA-BOONを見たら、なんて言うのだろう。

(続きは本誌をチェック!

text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.17 by MUSICA編集部

くるり、ポップミュージックに革命を起こす大傑作!
ニューアルバム『THE PIER』を
岸田繁単独インタヴュー&3人での全曲解説で徹底解明!!②

<§2 メンバー全員全曲解説インタヴュー>

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.50より掲載

 

■ここからは3人で『THE PIER』を1曲1曲紐解いていこうと思います。ただ、その前にひとつ。このアルバムを聴いて、改めて『ワルツを踊れ』という作品の重要性を再認識したんですよ。どういうことかと言うと、あの作品以降、アンサンブルのアプローチの仕方であったり、楽曲を作る時の視点みたいなものがいわゆるバンドミュージックとは全然違う、オーケストラの作曲に近いものになったのではないかということで。それによって自由度とアレンジのダイナミズムが凄く上がっていることが、今回の『THE PIER』の基盤になっているんじゃないかと強く感じて。先にその点について訊いておきたいなと思うんですが。

岸田「そうですね、まさに『ワルツ~』以降、作曲に対する考え方みたいなのは全然違うものになってますね。『ワルツ~』作る前に大好きなすぎやまこういちさん(『ドラゴンクエスト』の音楽を作っていることでも知られる作曲家)と初めて会って対談をしたんですよ。その時に、楽器を使って作曲するのは作曲じゃないって言われて。たとえばギターを持って曲が降ってくるのを待ってるのは、ギターが作ってるだけであなたの曲ではないって。そうではなくて、自分の脳内にあるイメージをしっかり構築して、それを楽器に置き換えて作っていく、それこそが作曲なんだと言われて、ハッとしたんです。まぁそうじゃない作り方――たとえば弾き語りで作るとか、そういうものも僕はいいと思うんですけど、でもそれ以降、全部じゃないけど重要なものはそういうやり方で作るようになって。今に至るまでもある過程まではそうしてるものが多いです。で、バンドに持っていく時は作り込まないっていう感じですかね。いろんな形で出てくるアイディアを捨てずに試すっていうことは、このアルバムで大事にしたことで。その結果、面白いこともたくさん起こったし」

■わかりました。では改めて、佐藤さんとファンちゃんの『THE PIER』に対する手応えを伺えますか?

佐藤「今の『ワルツ~』があったからっていうところは、僕もやっぱり凄い大きいと思います。単純なことでいうと、『ワルツ~』の時まで使ってなかったコードっていうのをそれからはずっと使い出したりもしてますし、あとメロディがメロディを呼ぶ作業というのが当たり前になった。それがギターのアルペジオであれトランペットのフレーズであれパーカッションの音色であれ、それをどうフィーチャーして次のものへと繋げていくか、そのメロディから次に何を生み出していくかっていう作業を、たぶんずっとやってたんやと思うんです。あと今回は、全体にサポートの人が少なくて、かなりバンドであれこれ考えたところが大きくて。たとえば繁くんがMIDIであれこれやってるのもそうやし、そこに対して自分がどういう音を入れるかみたいな作業もずっとやってたんで、これだけ音が入ってて音数が多い作品でも、もの凄く『くるり』が濃いものになったというか」

■パート関係なく、それぞれが音楽家としていろんなアイディアや好奇心を持ち寄って作り上げたという感じは凄くありますよね。

佐藤「そうですね。それは実は凄い久しぶりの感じっていうか。『図鑑』ぐらいの時期にプロデューサーを立てないで自分達でやってみようってなった時に、もっくん(森信行)と3人で『ここにこんな音入ってたら楽しいよね!』みたいなことを延々とやってたんですけど、その時と同じような感覚を、今回は常に持って制作してたっていうか。前作とか前々作とかは、バンドとしてっていう考え方とか、いいプレイを全員がしてっていう意識が強かったんですけど、今回はそんなんよりも悪ふざけができたというか(笑)。もうアルバム録り始める前にええ曲がすでに4曲(“Remember me”、“ロックンロール・ハネムーン”、“最後のメリークリスマス”、“loveless”の4曲)もあんねんから、他の曲はちょっとふざけてもええやろ!ぐらいの気持ちで入れたんですよ。それもよかったんやないかな。で、いざやってみたら、ちゃんとふざけるのは凄い大変やったっていうアルバムでもあります(笑)」

■ファンちゃんはどうですか? 『坩堝の電圧』とは全然違ったタイプの作品になったと思うんですけど。

ファンファン「今思うのは、『坩堝の電圧』ができた時にみんなに聴いてもらいたいなと思ってた気持ちを上回る、もっと聴いてもらいたいなっていう気持ちが大きくて。前の時は個人的にも行き当たりばったり感が大きかったんですけど(笑)、今回はレコーディング中にふたりから受ける影響も大きかったし、ふたりから出てくるアイディア自体が凄く面白いし、凄く瑞々しいなって強く感じて。そこで自分がどうするかみたいなのは、改めて考えたりしました。きっと、これから『THE PIER』を聴く度に、自分自身にもまた新しいことを教えてくれるアルバムになったと思います」

 

1. 2034

 

■では1曲ずつ訊いていきます。まず1曲目はインストゥルメンタルの楽曲ですが、もうこの曲が鳴った瞬間の興奮と覚醒感が凄い。先ほど話に出たすぎやまこういちさん的なゲーム音楽の世界にも通じる非常にファンタジックな曲なんですけど、徐々に音数とリズムが増えながら展開していくダイナミズムにしても、ひとつひとつの音の感性にしても、キャッチーなのに他では聴いたことのない世界が広がっていて。ここから新しい冒険が始まるんだなっていうワクワクした感覚が溢れ出す、最高の刺激に満ちた曲。

岸田「ありがとうございます。僕はRPGが好きで『ドラクエ』が一番好きなんですけど、最初に流れる音楽って重要なんですよ。映画でもやっぱり最初にどんな映像でどんな音楽が流れるかって凄い大事やし」

■観てる側の気分がそこで決まりますからね。

岸田「そうそう。たまに自分が映画を作る妄想をするんですけど。最初は無音で、初めて景色が見えるところでとびきり変な曲が鳴るとか、そういうワクワク感ってええなぁ思って。よその国に行って空港から出た時の感じとか、そういうのがいいなっていつも思うんですけど、これはまさにそういう曲。元々は僕の宮津の家で、たまたまiPadにELECTRIBEというソフトが入ってて、それを使ってリズムを作ってエフェクトかけたりカット&ペーストしたりして遊んでるうちにこのハープの音ができて。最初は曲にしようと思ってなくてスケッチ程度にやろうと思ってたんですけど、気づいたら夢中になってた(笑)」

(続きは本誌をチェック!

text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.17 by MUSICA編集部

andymori、長い夏の終わりの一日――
最後となるはずだったライヴ密着と
大どんでん返し、そのすべて

まさかのラストライヴ再び!
10/15日本武道館公演、急遽決定!!
最後の夏の記憶&急展開の真相をレポート!

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.10より掲載

 

 前号で密着記事を掲載した7月21日&27日の2本のワンマンライヴ「ひこうき雲と夏の音」に続く形で8月に4本のイベントに参加する形で行われたandymoriのライヴ。ライヴ開催の告知と同時にはっきりと発表されていた通り、当初の予定では、その計6本のライヴをもって、andymoriは解散するはずだった。つまり、8月29日(金)に山中湖で行われたSWEET LOVE SHOWER 2014のトリのステージが、彼らのラストライヴとなるはずだったのだが………。

 9月2日に発表された通り、andymoriは10月15日(水)に日本武道館でラストライヴを行うことになった。そう、「ラストライヴをもう一回」行うという展開になったのだ。前代未聞というか、メンバーも含めて誰ひとりとして想定していなかった大どんでん返し。この記事は8月29日のSWEET LOVE SHOWERの当日、というかまさにあのライヴの終盤までは「andymoriの最後の一日」を綴る予定でいたのだけど、この急展開を受け、andymoriの最後の夏の記憶となる3本のライヴと、そしてラストライヴを覆して武道館公演が決定するまでの真相を綴ります。詳細は後述するけれど、この展開は非常にアンディらしいというか、andymoriというバンドの本質が最後に予期せぬ形で露になった出来事だと思う。

 

 それではまずは、8月12日の話から――。

 

8月12日 ファンファーレと電話

at LIQUIDROOM ebisu

 

 実は、公に発表はされていなかったけれど、この「ファンファーレと電話」は壮平のケガがなければ昨年の夏に開催するはずだったイベントで、1年以上越しの約束を果たす形で今回開催に至ったライヴだった。

 13時35分、リハの関係でthe telephonesよりも先に会場に到着した3人。ライヴとしては8月7日の「Talking Rock! FES.」(大阪Zepp Namba)以来、個人的には7月27日のZepp Tokyoの楽屋で別れた以来で会う彼らは至っていつも通りの調子で、「リキッドでライヴやるの久しぶりだな」(そりゃそうだ。ちなみに休止前最後のワンマンは2013年4月5日、ここリキッドで行われた「FUN!FUN!FUN!」のツアーファイナルだった)とか言いながらくつろぎつつ、開演前&終演後に流す会場BGMを考え始めた。せっかくだからみんなが流したい曲を1曲ずつ入れようという壮平の提案で、寛、健二、そしてマネージャー氏や私も1曲ずつ挙げていく。テレフォンズのメンバーにもそれぞれ1曲ずつ挙げてもらおうと、傍らで壮平がノブに電話をかける。

 14時30分にはテレフォンズのメンバーも楽屋に到着、久しぶりの再会をお互いに喜び合う。ちょっと照れくさそうに笑うアンディ・メンバーに対し、壮平の回復と共にライヴをできる喜びを全身で表現していくテレフォンズのみんなの笑顔は、本当にもの凄く嬉しそうだったな。

 ワンマンも含め、アンディは最後のライヴ・シリーズを基本的に3人きりで回っていたのだが、この日はセットリストのうち“Sunrise&Sunset”、“投げKISSをあげるよ”、“ベンガルトラとウィスキー”の3曲でVeni Vidi Viciousの入江良介がギター&マンドリンでバンドに加わり、共に演奏した。実は壮平のケガでキャンセルしたツアーは、良介をサポートに迎える形でのライヴを考えていたのだ。この日の楽屋は、そんな良介がポロンポロンと爪弾くマンドリンの音色と壮平のギター、そしてアンディ&テレフォンズみんなで思い思いに談笑する声で終始満ち溢れ、賑やかでフレンドリーな雰囲気に満たされていた。別に思い出話を語り合うわけでもなく、くだらない話題で笑い合いながら、放課後の教室のような時間が穏やかに過ぎていって、それはなんだかとても温かで幸せな光景だった。

(続きは本誌をチェック!

 

text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』

Posted on 2014.09.17 by MUSICA編集部

くるり、ポップミュージックに革命を起こす大傑作!
ニューアルバム『THE PIER』を
岸田繁単独インタヴュー&3人での全曲解説で徹底解明!!

<§1 岸田繁 単独インタヴュー>

音楽でだったら何をやってもええのよ。通例としては許されへんけど、
自分達の音楽やったらそれをファンタジーとして成立させることもできるし、
リアルにその気持ちもわかるっていう感じで作れる

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.38より掲載

 

■『THE PIER』というアルバムが遂に出ます。これがとんでもない傑作だということは、それこそアルバム発売情報が出る前からウチの雑誌やSNSでフライング気味に騒いできてしまったんですが――。

「ありがとうございます」

■いえいえ(笑)。初めて聴いた時から音楽雑誌としてこのアルバムはどうしても表紙でやりたい、やるべきだと思って、今回の特集に至りました。

「気変わってないですか? 飽きたりしてない?」

■これがもう、まったく飽きないんですよ。私6月の頭くらいからずっと聴き続けてるんですけど、未だに興奮と感動の嵐です。

「ああ、そうですか。ありがとうございます」

■というわけで、今日は岸田さんソロと3人での全曲解説インタヴューと2本立てでいろいろ訊いていきたいので、よろしくお願いします。

「はい、よろしくお願いします」

■本当に革新的かつ独創的、それでいて普遍的でもあるというもの凄いアルバムができ上がったわけですけど。まず、岸田さんの感触は?

「うん………まあ、別に普通?」

■え! これ作っておいて、「別に普通」?(笑)。

「ははははは。自分としては普通やけど、みんなが『いい』って言ってくれるから、『いいんだな』と思ってて。もちろん自分でも凄く好きなアルバムができたなと思いますけどね。なんかこう、『上手くいった』って感じなんかな。前作とかと比べるとやることがはっきりしてたような感じ」

■これをもって前作を振り返ると――前作は新しいバンドになってたっていうことや、あと震災からそんなに時間が経ってなかったことも含めて、瞬発力というか、反射的に音楽を作っていたところもあったのかなと、今作を聴くと思いましたけどね。

「うん……まぁ前作がどういう作品だったんかは忘れましたけど。でも、毎回違うバンドやからね、よくよく考えたら」

■そうですね。

「まあ、今できることのうちのひとつっていうか、そういう感じなんかな。『こういうのが作りたかった』とかそういうのでもないのかもしれん。曲でそういうのはあるかもしれないですけどね」

■くるりはずっと、革新的であることや、自分達なりの解釈と感性で音楽を作るっていうことをやり続けてるバンドだと思うし、だからこそ1作1作いろんなベクトルの作品を作ってきたと思うんですけど。ただ、今回は音楽的にはっきりと新しいもの、くるりにとっても世の中にとって革新的なものをちゃんと作ろうとして作り上げたっていう印象があるんですけど。

「ずっとそういうことやってたつもりやったんですけど、レコーディングってなるといろいろ制限があって。ライヴの制限はライヴの制限であるんやけど、レコーディングっていうのもやっぱり制限があって。そういうことをここ何作かは、どっか『もうええか』みたいな感じでやってたっていうか………周りもこうやし、自分らもある程度合わせた上でやってみようとか、そういう感じもあったんですけど。でも今回は『周りがこうやし』とか『自分達を取り巻く状況はこうやから』っていうのに合わせてると、音楽として成り立たなくなってくるっていう危機感があったんですよね。そもそも、周りの人達が『音楽は不況で』とか、制作費云々とか言うてんのを聞いちゃったら、もう作らんでええやんっていうことになるんで。それは嫌なんで、そういう状況を斜めから見ながら、逆襲の方法を考えたっていうか。せやからルールを批判しまくってるアルバムでもある。そういうのは自分らの性には合ってたかもしれないですね」

■『ワルツ(を踊れ Tanz Walzer)』の後の『魂のゆくえ』からの3作って、もちろん実験や冒険もやっていたとは思うんですけど、どちらかと言うとバンドアンサンブルでできることを突き詰めていた作品で。

「うん、基本はライヴ録りですよね。『魂のゆくえ』なんかはダビングもほとんどしてないし。それはそれで凄くいいなと思うんですよ。もしかしたら、それが一番いいのかもしれないし。実際あのアルバムはいい音で録れたしね。でも、今回はもっとああいうシリアスさとは違う、もっと遊びながらって言うとちょっと違うんですけど、ふざけながらっていうか……質の悪い冗談、悪意のあることを本気でやったっていう感じ?(笑)」

■その「悪意」っていうのは?

「……今ってバカバカしい世の中で、バカバカしいものにまみれながら生活してて、もう怒ってたらキリないわけですよ。俺もおっさんやし、いちいち突っ込み入れんのも疲れるから、もう仙人みたいになって仙人みたいなアルバム作ることもできるんですけど、でもそれも違うなと思って。たとえば、このアルバムのジャケットってファンファン(Trumpet&Key&Vo)がiPhoneでシャキーンって録ったやつなんですよ。今ってそんな感じでもこういうもんが作れるんですよね。で、だったらそんな感じで作ったらええやん、みたいな(笑)。ただ、そこは適当ではなく、プロとして、プロ意識を持ってやろうっていうことで本気でやったっていう感じ。上手いこと説明できないんですけど………たとえば、食べ物なんかにしても本当はそのまま齧ったりとか、生で食うのが一番美味いっていうやないですか。で、それはそれで正解だと思うんですよね。でもややこしいのは、放っといて、干からびて、ちょっと腐ってる魚を食ってみたら美味かったっていうのが一夜干しになったりとか、何かと何かを混ぜ合わせたら美味かったっちゅうので料理になっていくみたいなこともある。発酵食もそうやし、カレーとラーメン混ぜてみましたとかね。で、僕らはそういうことを基本にして音楽をやってきてたんです」

(続きは本誌をチェック!

text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』