Posted on 2014.09.17 by MUSICA編集部

くるり、ポップミュージックに革命を起こす大傑作!
ニューアルバム『THE PIER』を
岸田繁単独インタヴュー&3人での全曲解説で徹底解明!!②

<§2 メンバー全員全曲解説インタヴュー>

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.50より掲載

 

■ここからは3人で『THE PIER』を1曲1曲紐解いていこうと思います。ただ、その前にひとつ。このアルバムを聴いて、改めて『ワルツを踊れ』という作品の重要性を再認識したんですよ。どういうことかと言うと、あの作品以降、アンサンブルのアプローチの仕方であったり、楽曲を作る時の視点みたいなものがいわゆるバンドミュージックとは全然違う、オーケストラの作曲に近いものになったのではないかということで。それによって自由度とアレンジのダイナミズムが凄く上がっていることが、今回の『THE PIER』の基盤になっているんじゃないかと強く感じて。先にその点について訊いておきたいなと思うんですが。

岸田「そうですね、まさに『ワルツ~』以降、作曲に対する考え方みたいなのは全然違うものになってますね。『ワルツ~』作る前に大好きなすぎやまこういちさん(『ドラゴンクエスト』の音楽を作っていることでも知られる作曲家)と初めて会って対談をしたんですよ。その時に、楽器を使って作曲するのは作曲じゃないって言われて。たとえばギターを持って曲が降ってくるのを待ってるのは、ギターが作ってるだけであなたの曲ではないって。そうではなくて、自分の脳内にあるイメージをしっかり構築して、それを楽器に置き換えて作っていく、それこそが作曲なんだと言われて、ハッとしたんです。まぁそうじゃない作り方――たとえば弾き語りで作るとか、そういうものも僕はいいと思うんですけど、でもそれ以降、全部じゃないけど重要なものはそういうやり方で作るようになって。今に至るまでもある過程まではそうしてるものが多いです。で、バンドに持っていく時は作り込まないっていう感じですかね。いろんな形で出てくるアイディアを捨てずに試すっていうことは、このアルバムで大事にしたことで。その結果、面白いこともたくさん起こったし」

■わかりました。では改めて、佐藤さんとファンちゃんの『THE PIER』に対する手応えを伺えますか?

佐藤「今の『ワルツ~』があったからっていうところは、僕もやっぱり凄い大きいと思います。単純なことでいうと、『ワルツ~』の時まで使ってなかったコードっていうのをそれからはずっと使い出したりもしてますし、あとメロディがメロディを呼ぶ作業というのが当たり前になった。それがギターのアルペジオであれトランペットのフレーズであれパーカッションの音色であれ、それをどうフィーチャーして次のものへと繋げていくか、そのメロディから次に何を生み出していくかっていう作業を、たぶんずっとやってたんやと思うんです。あと今回は、全体にサポートの人が少なくて、かなりバンドであれこれ考えたところが大きくて。たとえば繁くんがMIDIであれこれやってるのもそうやし、そこに対して自分がどういう音を入れるかみたいな作業もずっとやってたんで、これだけ音が入ってて音数が多い作品でも、もの凄く『くるり』が濃いものになったというか」

■パート関係なく、それぞれが音楽家としていろんなアイディアや好奇心を持ち寄って作り上げたという感じは凄くありますよね。

佐藤「そうですね。それは実は凄い久しぶりの感じっていうか。『図鑑』ぐらいの時期にプロデューサーを立てないで自分達でやってみようってなった時に、もっくん(森信行)と3人で『ここにこんな音入ってたら楽しいよね!』みたいなことを延々とやってたんですけど、その時と同じような感覚を、今回は常に持って制作してたっていうか。前作とか前々作とかは、バンドとしてっていう考え方とか、いいプレイを全員がしてっていう意識が強かったんですけど、今回はそんなんよりも悪ふざけができたというか(笑)。もうアルバム録り始める前にええ曲がすでに4曲(“Remember me”、“ロックンロール・ハネムーン”、“最後のメリークリスマス”、“loveless”の4曲)もあんねんから、他の曲はちょっとふざけてもええやろ!ぐらいの気持ちで入れたんですよ。それもよかったんやないかな。で、いざやってみたら、ちゃんとふざけるのは凄い大変やったっていうアルバムでもあります(笑)」

■ファンちゃんはどうですか? 『坩堝の電圧』とは全然違ったタイプの作品になったと思うんですけど。

ファンファン「今思うのは、『坩堝の電圧』ができた時にみんなに聴いてもらいたいなと思ってた気持ちを上回る、もっと聴いてもらいたいなっていう気持ちが大きくて。前の時は個人的にも行き当たりばったり感が大きかったんですけど(笑)、今回はレコーディング中にふたりから受ける影響も大きかったし、ふたりから出てくるアイディア自体が凄く面白いし、凄く瑞々しいなって強く感じて。そこで自分がどうするかみたいなのは、改めて考えたりしました。きっと、これから『THE PIER』を聴く度に、自分自身にもまた新しいことを教えてくれるアルバムになったと思います」

 

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■では1曲ずつ訊いていきます。まず1曲目はインストゥルメンタルの楽曲ですが、もうこの曲が鳴った瞬間の興奮と覚醒感が凄い。先ほど話に出たすぎやまこういちさん的なゲーム音楽の世界にも通じる非常にファンタジックな曲なんですけど、徐々に音数とリズムが増えながら展開していくダイナミズムにしても、ひとつひとつの音の感性にしても、キャッチーなのに他では聴いたことのない世界が広がっていて。ここから新しい冒険が始まるんだなっていうワクワクした感覚が溢れ出す、最高の刺激に満ちた曲。

岸田「ありがとうございます。僕はRPGが好きで『ドラクエ』が一番好きなんですけど、最初に流れる音楽って重要なんですよ。映画でもやっぱり最初にどんな映像でどんな音楽が流れるかって凄い大事やし」

■観てる側の気分がそこで決まりますからね。

岸田「そうそう。たまに自分が映画を作る妄想をするんですけど。最初は無音で、初めて景色が見えるところでとびきり変な曲が鳴るとか、そういうワクワク感ってええなぁ思って。よその国に行って空港から出た時の感じとか、そういうのがいいなっていつも思うんですけど、これはまさにそういう曲。元々は僕の宮津の家で、たまたまiPadにELECTRIBEというソフトが入ってて、それを使ってリズムを作ってエフェクトかけたりカット&ペーストしたりして遊んでるうちにこのハープの音ができて。最初は曲にしようと思ってなくてスケッチ程度にやろうと思ってたんですけど、気づいたら夢中になってた(笑)」

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text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』