Posted on 2014.09.18 by MUSICA編集部

SiM、
「俺達は何と闘っているんだ? ロックとはなんだ?」
――威信と野心を懸けて新境地に挑む

MAHというキャラクターがひとり歩きしてしまって、
「ロック観」がわからない子達が
凄く安易に近づいてくるようになっちゃったんです。
そういう人達に、本当の自分、本当のロックを見せたい
っていう気持ちが凄く強まってるんですよ

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.68より掲載

 

■強烈な絶叫やEDM的アプローチもありつつ、MAHさんのルーツにあるレゲエやダブに重心が置かれた、徹底的に飛んで潜れる作品だと感じて。

「ああ、ありがとうございます。今回は、レゲエやスカっていう、自分達の根幹にあるものを今までよりもさらにわかりやすく出した上で、最近のSiMっぽいダブステップやエレクトロな要素を入れて。それをお客さんに提示したら、どういう反応を示すのか?――そういう、実験的な6曲っていう感じですね。10年やってきたし、『PANDORA』の作り込んだ流れ、世界観もひと段落したし――そこから次のアルバムに向けて、曲の方向性が四方八方に散らかってもいいから、レゲエやスカに重点を置きながらいろんな曲を作ってみてもいいかなと思ったんですよ」

■『PANDORA』っていうのは、ラウドロックとの差別化や音楽性の深さをハッキリと示したアルバムだったと思うんですよ。要するに、MAHさん達がやってきたことがキッチリと結実した作品だったと思うんですよね。

「うん、そうですね」

■それをより深くやろうとしたっていうことなんですか?

「元々、少しUKっぽい湿り気のあるレゲエとロックを結成当初からやっていたんですけど、そこから一度『SEEDS OF HOPE』でラウドロックの方向に振り切って、『LiFE and DEATH』っていうアルバムでダブステップの要素とかも取り入れ始めて――で、『PANDORA』で、もっと広い意味でのロックバンドなんだっていうことを示せたんですよね。そこで、自分が思い描いていた1セクションが終わった感じがあったんですよ。だから、今回もなるべく、今流行っている『ズクズン系』のメタリックなリフは意識的に取り入れないようにしていて。なるべく、僕らが聴いて育ってきたルーツ――レゲエやスカと共に、2000年代初頭くらいまでのヘヴィロックやニューメタル感もより入れていこうっていうヴィジョンは『PANDORA』以降から強くなったんですよ。だから、極端なブレイクダウンは今回も入れてないし。……まぁ、SiMのメンバー自身、ひとりもアホになれるタイプの人間じゃないっていうのもあって、それぞれが好む音楽やルーツを深く出そうとすると、どうしてもドロドロした世界観になっていくのかもしれないんですけどね(笑)」

■“GUNSHOTS”みたいなスカナンバーでも、根底には結構ダークな世界観がありますよね。今的な「踊る」とは違うノリがあって。

「ああ、そうですね。そもそも、こういうラウドでヘヴィな音っていうのは、そういうドロドロした世界観を表現するためのものだって思ってるところもあるんで。やっぱ、俺らにとっての音楽の楽しみ方っていうのはそういうところだと思うんですよ。それが俺らにとってのチルというか、浄化というか――いわゆる『踊って楽しもうぜ!』みたいな感じとはちょっと違うんですよね。ライヴではそういう言葉を使ったりもするけど、音楽を作る上では、こういうダークなものにはなっていきますね」

■チル、浄化とおっしゃいましたけど――つまり、自分達が音楽によって心を解放されてきた、その感覚に忠実なものを今こそドバッと出せるようになってきたのが今作だということですよね。

「そうですね。そもそも『PANDORA』のレコーディングは去年の1月に終わっていたから、レゲエとかの世界観を強調したいっていう意図は、1年前くらいから強くなっていたんですけど」

■去年1年間で何を感じて、そういう意図が生まれたんですか?

「やっぱり、フェスとかの30分~40分くらいのセットで曲を並べていくと、ここまでMVにしてきた曲――勢いのある、キラーチューンと呼ばれるような曲ばかりを優先することになってしまって。SiMなのに、『ズン、タン』っていうストレートなものだけになっちゃってると感じたんですよ」

■現場レベルで、本来の音楽性をなかなか出せずじまいだった。

「そう。要するに、レゲエ感とかが全然ないバンドになっちゃってて。だから、今回の作品では“Fallen Idols”とか“GUNSHOTS”みたいな、スカやレゲエを思い切りフィーチャーした曲でMVを撮ったんですよ」

■なるほど。どちらもミクスチャー感が凄く強いし、これまでSiMがMVを撮ってきた楽曲とは明らかに違うアプローチでロックしてる。

「そう、そう。“Fallen Idols”にはバリントン・リーヴァイ(80年代初期を代表する、レゲエシンガー)の“Black Roses”っていう曲の有名なリディムを使っていて、“Slim Thing”のイントロではウェイン・スミス(1985年にデビューしたジャマイカのシンガー。レゲエトラックのデジタライズ第一人者)の“Sleng Teng”のリディムを使ってて――要するに、レゲエの『二大・有名なリズム』と言えるようなものをフィーチャーしてるんですよ。で、わざと作品のタイトルもBad Brains(80年代のアメリカで、ハードコアにレゲエの要素をミックスしていった先駆者的バンド)のアルバムと同じものにして。それくらい深い音楽性を持ってるし、ちゃんと音楽のルーツを消化した上でやってるんですっていうのを見せるタイミングだったんですよ。『レゲエパンクとか言ってるけど、全然レゲエじゃねぇじゃん』っていう見方もあったかもしれないけど、『いやいや、ちゃんと深く掘ってますよ』っていうのをわかりやすくやったんですよね」

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text by 矢島大地

『MUSICA10月号 Vol.90』