Posted on 2014.09.19 by MUSICA編集部

赤い公園、奔放なる音楽との戯れと確信

突拍子もないことはしてないなって思うんです。
逆の言い方をすれば、
自分達が今までやってきたことに対する説明も、
これで全部つくと思う。
やるべきことが全部できた清々しいアルバムです

『MUSICA 10月号 Vol.90』P.80より掲載

 

■この『猛烈リトミック』は、メロディにしろ音にしろ感覚にしろ、米咲ちゃんの中にあるものが淀みなくそれぞれの楽曲として結実したアルバムだなと感じました。つまり音楽家としての津野米咲の中に渦巻く美しいカオスのすべてが、赤い公園というバンドを媒介にしてとても素直に音楽として結実したアルバム。ご自分ではどう思いますか?

「自分でも思いっ切りできたと思っています。今までわざわざ回りくどいことをしていたという意識はないんですけど、でも、より意識しないようにすることで、元から持っていた我々のどうしようもない回りくどさが出たかなって(笑)。全部が摩擦0の状態で放出された感じ……それがたぶん素直ってことだと思うんですけど。自分としては『もの凄くいいものを作るんだ』という曖昧な、かつハンパない熱量の情熱を持って音楽を作るっていうことを、最後まで途切れずにできたアルバムだなという手応えがあって。それは完成して聴いていても思います」

■何処にもリミッターをかけずに思い切りやり切ってるよね。

「そう! 何をやってもいい、やっちゃいけないことがない、なんも怖くない!っていう謎の無敵感みたいなものを、録ってる段階からひしひしと感じながら作ってましたね。ほんと無敵状態だった、ふふふ。あと、この15曲でやってることはすべて説明がつくんですよ」

■それはつまり、自分の想い描いた通りに、ちゃんと必然性を持って、楽曲として完成形まで持っていけたということだと思うんだけど。

「はい。だから突拍子もないことはしてないなって思うんです。だから逆の言い方をすれば、自分達が今までやってきたことに対する説明も、これで全部つくと思う。その上で、ただただすべて猛烈に気合いが入ってるという(笑)。やるべきことが全部できたっていう清々しいアルバムです。凄く鮮やか。だから思い残すことがあんまりない」

■曲を作るってことに関しても、それを表現するってことに関しても、とても自由になったと思うんですよ。どうしてこうなれたんですかね。

「それはもう、本当に“NOW ON AIR”っていう曲がすべての扉を開いてくれたんだと思います。なんとなくこういう感じでアルバム作ろうかなっていうプレイリストを組んでた時に、どうしても足りないものがあると思って。それで書いたのが“NOW ON AIR”だったんですけど。いろんなラインの曲がある中で、とにかく太陽の光みたいな――ライトの光じゃなくて、翳る時もあるし、昇って沈んで私達に見えない時もある、でも常に凄く巨大な光を持っている太陽のような存在が欲しかったんですね。そう思って“NOW ON AIR”っていう楽曲を作って……これができたことによって他の曲達も、音に関しても歌詞に関しても、すべて曲が本来行きたがってるところに思い切り持っていくことができたかなって思います」

■ということは、“NOW ON AIR”を作った時には他の曲はできていた?

「そうですね。デモとしては揃ってて、一番最後に作ったのが“NOW ON AIR”だったんですけど。とにかく歌の力がすべてを引っ張っていく曲にしようと思って。で、そういう曲を作るためにはどうしたらいいんだろうって思って――私、いつも打ち込みで作るから、どうしても癖があるんですよ。鍵盤で叩くドラムの癖とかベースの癖があって。でもこの曲を作るにあたっては、それが要らないなと思って。それで『私はちょっと頭で考え過ぎだな、よし、体を動かそう!』と思って、デビュー前にプリプロとかでお世話になってたスタジオにひとりで行って。まずドラムをなんとなく1曲分叩いて録ってもらって、その後にベースを借りて『なんか、ぽい!』みたいな感じで1曲丸々弾いて、その後ギターも『ベースがこうだったらこう!』みたいな感じで弾いて、最後、マイクの前にメモ帳もなんもない状態で立ってスッと歌ったら、このメロディとサビ頭の<レディオ>っていう言葉が出てきて……その段階で『できたな』っていう感じはありましたね。要はひとりセッションみたいな状態なんですけど(笑)、凄く自分らしさを感じて。自分がずっと大好きでルーツになっている日本の歌のメロディも出てるし、同時にとても赤い公園っぽいなとも思ったし。で、何より演奏がシンプル――私が実際に弾いたり叩いたりできることなんて限界があるから、シンプルで当たり前なんですけど(笑)、でもシンプルな演奏の上に自然に出てきたメロディが凄く強力なものだったのが凄く嬉しくて。それでみんなに聴かせたら、ウチのバンド割とネガティヴなのに『この曲はほんとにいい曲だ!』っていう反応で。そういう曲ができたことが、今回のレコーディングを円滑に進められた大きな要因かなと思います」

(続きは本誌をチェック!

text by 有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.90』