Posted on 2014.12.17 by MUSICA編集部

大森靖子、表現者としての必然とラディカルな方法論で
誰よりも誠実で切実な音楽を刻む

孤独は怖くないですね。
だって孤独じゃなかったら空っぽじゃないですか。
孤独だけがオリジナリティっていうか。そこがないとヤバいかなって

『MUSICA 1月号 Vol.93』P.106より掲載

 

■今までよりも格段に音楽的な幅が広がった作品になりましたね。これはメジャーに籍を移して最初のアルバムだということも意識してのことだと思うんですが、ご自分では今回どんなイメージやコンセプトをもってアルバムを作っていったんですか?

「J-POPですね。しかもJ-POPの50位から1位までが入ってるアルバムっていうか。そもそも私は90年代のJ-POP50位から1位までを毎月聴くみたいな聴き方で音楽に触れてきたので――あとはピアノ習ったりしてたので、普通にクラシックも聴いてたんですけど――そういう感じになればいいなって」

■それは、自分のベースにあるJ-POP体験を2014年の今、自分なりにやるならどういうものか?っていう発想から生まれているということ?

「っていうよりは、本質的なことを如何に曲げずにメジャーで伝わるようにするかっていうことを考えた時に、普通に『J-POP使えばいいじゃん』って思ったんですよ。J-POPって、売れたらなんでもJ-POPで、ジャンルとかではないじゃないですか」

■言ってみれば売れたもの、つまり大衆に支持されたものがJ-POPというジャンルを作っていくところがありますよね。

「そう。でも一応分析すれば、今のJ-POPの形みたいなのってやっぱりあって。その今の上位50曲の中の40曲ぐらいに当てはまる形式とか、『この音の次はこの音』みたいな、そういう今一番聴き心地がいい音の運びとかBPMとかリズム感っていうのを今回は敢えて使おうと思ったんですよね。そうすることによって……たとえば『はい、毒です』って差し出されたら飲まないけど、オレンジジュースに混ざってたりしたら毒も普通に飲んじゃうよなみたいな。そういう感じですね」

■要は、今のJ-POPの形式を取ることでリスナーに抵抗なく自分の毒を飲ませるという。毒を入れてるっていう意識はやっぱり強いんですか。

「でも毒ではないですけどね。自分が歌ってることは別にマイノリティでもなんでもない、全員が思ってることを言ってるだけなんで、毒っていう意識はなくて。もっと本質っていうか、『人間』っていうか。……普通に社会に生きてる人にとっては、人間くさいのって嫌じゃないですか。でも私は人間くさい人が好きなんですよ。感情的な人が好きだし、喜怒哀楽がいつも爆発してる人が好きだし、喧嘩してる人とか大好きだし、その人がそのままで生きてるほうが面白いなと思う。ただ、それをそのままやっちゃうと嫌がられるというか――」

■そういうのって何かと均質化された今の世の中では異物感が強かったりもするし、相手を選ぶ表現になってしまうこともありますよね。

「そうそう、そこを上手く気づかれないようにやらないと、真ん中(メジャー)に来た意味がないって思うんで。そう考えた時に『だったら今のJ-POPをそのまんま使えばいいじゃん』ってなって。今のタイミングでは音楽的に新しいものは要らないなって思ったんですよ。新しいもの作ろうとすると――新しいものってイコール聴いたことがないものだから、拒否感って絶対に生まれるじゃないですか。今は別にそれは要らないなっていうか、メジャーデビューでわざわざそんなことやんなくいいって思って」

■自分の表現の本質を広く伝えるために、敢えてJ-POPという形を利用したっていう。

「そうですね。だからアレンジの人にも『聴いたことがある音を使って欲しい』っていうことを言ったし」

■ちなみに、アレンジに関しては希望だけ伝えて結構委ねたんですか?

「そうですね。iPhoneに歌とコードを録音して制作部に送って、『この曲はEDMとagehasprings足して2で割った感じでお願いします』みたいなリクエスト出して。で、返ってきて『OKでーす!』みたいな(笑)。私、元からいいメロディをいい声で歌えばいい主義なので、あんまり音楽性みたいなものへのこだわりはないんですよね。弾き語りも便利だったから弾き語りでやってるだけで、音は耳触りのいい音ならなんでも好き(笑)」

■とはいえ、これまでの『魔法が使えないなら死にたい』と『絶対少女』という2枚のアルバムは、結果的にバンドサウンドやカラフルな音色をまとっていても、大前提として弾き語りっていうものを軸とした上でのソングライティングだったと思うんです。でも今回のアルバムでは明らかに弾き語りが前提になっていないメロディなり歌なりが増えていて、その結果、音楽だけでなくメロディや歌の自由度も凄く上がってて。

「うん、自由度は上がってますね」

■『魔法が使えないなら死にたい』を出した後に「次は弾き語りのアルバムを作りたいけど、その次は編曲を全部他の人に任せるようなアルバムを作りたい」という話をしてたのを目にしたことがあるんですけど、そもそもこういう方向に進みたいというヴィジョンがあったんですか。

「そうですね。実際『絶対少女』は最初弾き語りのアルバムを作ろうと思ってたし、自分の弾き語りのライヴが持っている魅力そのものを音源で活かせるように膨らませてもらったアルバムで。でも今回は、ライヴとは全然関係ないものを作ろうと思ってたんですよ。ライヴでほぼやってない曲ばっかりをアルバムに入れようと思って作ったし……やっぱり、弾き語りでやって伝わることって、凄く少ないんですよ。あれはめちゃくちゃ計算しないとできないっていうか、弾き語りでやる歌って言葉をめちゃくちゃ選ばいないとダメだと思ってて。私、他の人の弾き語りとか観るのがほんと嫌いなんですよ。だって凄いつまんないじゃないですか。見た目も地味だし動かないし。ほんと、自分以外の弾き語りライヴってみんな眠いなって思ってるんですけど。で、じゃあどうしたら弾き語りでも魅せられるかってことを考えてくと、無駄な言葉1個も入れられないんです」

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text by 有泉智子

『MUSICA1月号 Vol.93』