Posted on 2013.06.17 by MUSICA編集部

サカナクション、エンターテイメントの基準値を更新した
幕張ライヴ、完全密着

世界規模の音の遊園地が、日本に生まれた日。
2万人×2日=4万人に、
228本のスピーカー×6.1chサラウンドシステムと
多彩な演出をもって臨んだ、
「表も裏も全部音楽で」なライヴエンターテイメント、
サカナクション幕張メッセライヴ。
多くの難題と向かい合った前日ゲネプロ、
起死回生の完成度を放った初日、
山口一郎による総括語録……
現在のサカナクション現象が何なのか?をすべて凝縮した、
リアルドキュメンタリー!

『MUSICA 7月号 Vol.75』P48に掲載

5月17日 ゲネプロ

 16時過ぎにメッセに入ると、ちょうどリハーサルを終え、メンバーやスタッフが入り交じって本番へ向かう前のいろいろな調整や打ち合わせをしている。ん? 本番? この日はゲネプロという本番日とは違う日なんじゃないの?という疑問が湧くだろう。その通り。ただ、ゲネプロというのは、本番当日とまったく同じ動きをする日でもある。なので、本番日同様に、まずは各々の楽器の音を調整するサウンドチェックをし、リハーサルをし、そして本番同様の演奏とPAと照明と演出をもってライヴを行うのである。
 一郎が自転車に乗って、ステージとPAブースを往復している。演出やサウンド面など、細かい確認と、客目線で観るとどうなのか?を様々なスタッフに尋ねている。2度目の幕張だけど、その空気や姿勢からはまったく2度目感がない。一郎いわく「前回のは、幕張メッセに僕らが合わせていったと思うんですけど、今回はサカナクションに幕張メッセが合わせてくれるものになると思うんですよね。で、そっちのほうが全然大変(笑)」。
 サラウンドの調整が始まると、メンバーはいろいろな場所に散らばって、みんなで音がどう回るのか? その感覚がどれぐらい耳や身体に伝わってくるのか?を体感している。その時に一郎がすすっと横に来て、「凄いでしょ? 楽しいでしょ? でも、正直俺にはわからないんですよね、そのサラウンド感が。だって片耳が聞こえないんだから、ちゃんと体感できないもん。……ここはメンバーに任せて、メンバーを信用してやるしかないんだよね」とサラッと言った。こういう一郎の発言は文字にするととてもショックの大きなものになるが、実際の彼は右耳が聞こえないことを、とてもフラットに話す。この状態になってからもう何年も経つ一郎は、様々な体験の中でそのことと溢れる程向き合ってきたが、それでもまだこういうことが起こるんだということを、ある意味新鮮な想いで受け入れているようだ。
 そのまま5人は楽屋に戻らず延々と会場内と向かい合い続けているので、マネージャーがそろそろひと呼吸置いて、着替えをして本ゲネへ向かおうとメンバーを楽屋に戻し、そこで本番同様のスタイリングをしながらステージへ戻る。
 今回のアリーナライヴに関わる百数十人の自己紹介大会が行われ、一致団結して頑張ろうと意志確認をし、本ゲネが始まった。
 基本、このゲネは本番と同じ進行をするのが目的なので、よほどのことがない限り途中で止めるのはやめようと話し合ってから始まっていて、実際に進行の妨げとなるようなトラブルはなかった。結果、がらんと広がった無人のフロアに向けてメンバーとスタッフは、アンコールまで全部含めて2時間以上のライヴを行った。ちなみにMCも本番同様にこなすが、内容は一郎の昔話から今の話までを使いながらギターのもっちを『公開裁判』していくというもので。この時ばかりはスタッフみんな腹を抱えて大笑い。実際のMC同様に、メッセが一瞬だけ緩んだ。

(続きは本誌をチェック!)

text by 鹿野 淳

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