Posted on 2014.02.17 by MUSICA編集部

赤い公園、2ヵ月連続シングルリリース。
かつてない大名曲に露になった津野米咲の表現の根源に迫る。

途方もなく孤独でどうしようもないって時に、
独りでも希望を見出すために……
それは一瞬でいいんです、
その一瞬の希望、きっかけとなる光を見出したい。
“きっかけ”は、そういう歌なんです

『MUSICA 2月号 Vol.83』P.74より掲載

 

■2ヵ月連続で2枚のシングルが出るんですが、とにかく“風が知ってる”と、そして“きっかけ”が、圧倒的な名曲。

「わーっ、やったー! 嬉しいです!」

■今回は2枚とも、アルバム後初のシングルであると共に、それぞれアニメ、映画、ドラマへの書き下ろし曲として世の中に出ていく曲なわけだけど。どんな意志を持って制作したんですか。

「今回は書き下ろしのお話をいただいた上で明確に作っていったシングルですね。書き下ろし自体が初めてだし、資料を読んで監督さんとお話して作っていった感じです」

■“きっかけ”はタイアップ曲じゃないけど、これは?

「これは休止中の2012年の一番最後に作った曲なんです。それからずっとあたためてた曲で」

■タイアップとして書き下ろす、つまりアニメなりドラマなりに寄り添って書くという作業は、やっぱり通常とは違うもの?

「違うところはありましたね。たとえば私が個人で書くってことならそのアニメ以外では使えないような曲を作りたいけど、でも赤い公園としてCDを出したり今後ライヴでやるって考えると、アニメ関係なく純粋に『いい曲』でなければいけないなって。そこは葛藤しました。特に歌詞かな。ストーリーを汲んだ上で他のテーマを見つけて書かないと、赤い公園のシングルとして成り立たないなって。そこは結構考えに考え抜いた感じです。たくさん書き直したし」

■でもね、この“風が知ってる”は、私は米咲ちゃん自身の歌だなって思ったんですよ。

「わ、嬉しいです。それは私も結構思います」

■<愛の言葉じゃ/救い出せない/とどかない想いが/吹き荒れてる>という印象的な歌詞から始まるんだけど。これは君と僕の愛の歌でもあるけれど、米咲ちゃんが何故こんなにも音楽を求めてしまうのか、音楽というものにどんな希望を見ていて、どんな場所へ辿り着きたいのか――それは成功とかそういう意味じゃなくて、もっと根源の精神的な部分だったり人生という意味で――が素直に歌われている歌詞だし、メロディやアレンジの表すものもそうだと思う。

「それは思います。私はこれを愛の歌として書くと決めて書いてるんですけど、やっぱりまだ誰か対象がある愛の歌を書くことができなくて。だからおっしゃる通り、私の愛の対象はやっぱり音楽だなって思うんですけど。でも、それで私は苦しんでるんですね。苦しんでるから、最後に救われたくて<その体温は僕と/風が知ってる>って歌うんですけど………私の体温を唯一知ってる僕が音楽だったとして、その僕がなくなってしまった時に何もないんじゃない、風も知ってるんだよっていう」

■ああ、つまり「僕」以外にも「風」が知ってるんだってところが重要な救いなんだ。

「そうですね。そういうことが一番の希望になるんですよね」

■<震えている/君をほっておけないのさ/必ずそこまで迎えにいくよ>という歌詞。私は、この「震えている君」は心の奥底で独り膝を抱えている米咲ちゃん自身であり、そして「必ずそこまで迎えにいく僕」は、音楽家としての米咲ちゃんのことを指していると思ったの。つまり音楽というものによって本当の自分を救い出したい、解放したいという、そういう根源的な部分が表れてると思う。

「そうかもしれない。自分と自分の歌なんですよね」

■で、<未完成の心の/鍵を探す>っていうフレーズ、これはつまり米咲ちゃんが音楽をやる理由だと思うんですよ。それはアルバムのインタヴューの時に話したことにも繋がるけども。

「ああ、ほんとそうですね。その<未完成の心の/鍵を探す>ってところと<不完全でならないが/武器は持たず>っていうところは自然と出てきたんですけど、ちょうどそこがアニメの内容にも引っ掛かってて。アニメの登場人物達も、思春期を終えて、最早思春期とは言い訳もできない何かを抱えているっていう……それは私も感じてるから。たぶん私はそれを人より割と強く感じるほうなので、ここまで刺激的な言葉にはなってますけど。書けてよかったな。こんなにストレートな歌詞を書けたのも自分ではよかったなって」

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text by 有泉 智子

『MUSICA3月号 Vol.83』