Posted on 2015.04.17 by MUSICA編集部

きのこ帝国、初めて告白された転機と、
名曲を掲げた新たなるスタート

自分がとてつもなく弱くて脆いということを知ったんです。
自分が置いてきた、捨ててきたと思っていたはずのもの達に、
実は未だに支えられてたことに気づいたんですよね

『MUSICA 5月号 Vol.97』P.90より掲載

 

■素晴らしい曲が生まれましたね。

「嬉しい、ありがとうございます」

■“桜が咲く前に”は“東京”から10年前に遡った記憶を綴った曲だとアナウンスされていて、そういう意味では連作という言い方もできるかもしれないけど、それを抜きにしてもこれは“東京”に続くきのこ帝国の代表曲となっていく名曲だと思います。ご自分ではどうですか?

「いい曲ができてよかったなと思ってます。“東京”と『フェイクワールドワンダーランド』の後だったんで、多少気負ってた部分もあったんですけど。絶対にいいものを作らないとなっていう気合いの中で作った曲です」

(中略)

■“東京”という曲は世の中にたくさんあって、その中には上京する気持ちを歌ったものもあれば、夢や憧れのメタファーとして「東京」を歌うものもあったりと様々なんですけど。きのこ帝国の場合の“東京”は、新しい場所に自分の居場所を見つけられたこととその幸福を歌ったものだったと思うんです。で、今回の“桜が咲く前に”は上京前夜の想いを歌っているわけだけど、これはある意味、過去の自分を肯定する歌でもあり、そして同時に、その想いをノスタルジーとしてではなく、今も自分の中に大切にあるものとして歌っている曲でもあって。ただ、そのどちらにしても、今の自分を肯定できていないと歌えない曲だと思うんですよ。やっぱりここ1年くらいの間に佐藤さんの中で大きな変化があったからこそ、“東京”が生まれたし、“桜が咲く前に”が生まれたんだなと思うんですけど。

「変化……うん、あると思います。凄い変わったと思います。どうやってどんなふうに変わったかっていうのは上手く言えないんですけど、でも確実に変わってはいて………どう変わったんでしょうね?(笑)」

■『フェイクワールドワンダーランド』の時にも伝えたけど、あの作品で、佐藤さんは鎧を外したところが凄くあったと思うんです。それは佐藤さん自身の本質が変わったというよりも、強くあるために、あるいはナメられないために、音楽性も含めていろんなもので身を固めていたところがあったのが、それらがストンと落ちて佐藤さん自身というものがそのまま音楽になっていく時期に入ったんだというふうに感じたんですけど。

「はい」

■それを私は『ロンググッドバイ』できっと何かひとつの決着がついたからなのだろうと捉えていたんですけど。で、今回の“桜が咲く前に”も、とても率直に佐藤さん自身の想いが表れている、とても清々しい曲で。

「そうですね。ある時からなんと言われてもいいやっていうふうに開き直った瞬間があって。こういうことをやったらバカにされるかなとか、こういうことをしたらナメられるかなとか、そういう意識は少なからずあったんですけど、そんな制約がどんどんくだらなく思えてきて。そんなことは気にせずに作った音楽のほうが届けたい人にまっすぐ届くんだったらそっちを優先したいと思うようになったというか……逆に言えば焦ってもいるっていうことなんですけど。もっと早く、もっと遠くに届けなきゃっていう漠然とした焦りと不安が強くなってくる中で、そう思うようになって」

■それは前にも話してくれましたよね。

「はい。………でも、本当は『ロンググッドバイ』を出した後に、もうやめちゃおうと思ってたんです」

■えっ? それはバンドをやめるっていうこと?

「はい、バンドをやめちゃおうと思ってました。まあ、割と自分はそういうことを考えたりするんですけど(笑)。でも、あの時はほんとに具体的に……『ロンググッドバイ』のツアーをやった辺りで、なんかもう終わったなと思ってたんです。とりあえずひとつ節目が終わったなって思ったし、これ以上このバンドで何がやっていけるんだって思ってて」

■そうだったんだ。初めて知りました。

「それは誰にも言わずに過ごしてたんですけどね。でも、いろいろ考えて、もう1枚ぐらいアルバムを残してから考えよう、そこまで我慢してバンドで音楽を作って出してから、やめたいか/やめたくないか考えればいいかと思ったんです。で、そういう想いの中で“東京”っていう曲が出てきて………“東京”は、それまでのきのこ帝国っぽくない曲だったと思うんですけど、ああいう曲が出てきたのは、自分としてはもうバンドをやめたいっていう吹っ切れた感覚があったからなんですよね。で、“東京”以降は楽曲至上主義みたいな感じになっていくんですけど………だから『ロンググッドバイ』の時に、きのこ帝国は1回終わってるんです。本当にロンググッドバイみたいな、これを最後にしようという感じで作ってましたから」

■なるほど、そうだったんですね……。

「でも、“東京”ができて、それをみんなで演奏した時に、新しいきのこ帝国が自分の中に見えてきて。もちろん楽曲ありきなんだけど、4人で演奏した時の高揚感っていうのはやっぱり実際にあるなと思えて……その時に結構、感動したんですよね。ただ、“東京”以降は自分の中ではアンコールだったんですよ。『フェイクワールドワンダーランド』は、もう終わったきのこ帝国のアンコールをやってる気分で曲を作ってて。そうやって作り終わって、2014年の年末にちょっとずつメンバーとも話し合ったりして。そういうのもあってライヴを少し休もうっていうふうになったんですよね」

(続きは本誌をチェック!

text by 有泉智子

『MUSICA5月号 Vol.97』