Posted on 2015.08.19 by MUSICA編集部

THE ORAL CIGARETTES、Zepp DiverCity公演
忘れ得ぬ悔恨と決意を赤裸々ドキュメント

闘い続け、遂に辿り着いたZepp DiverCityワンマン。
歓喜の涙に暮れるはずだったライヴは、
予期もしない悔恨の涙にうずくまることとなった……。
勢いに満ちた起死回生STORYが、
屈辱の途中ステージ離脱とセットリスト減らしとなった、
THE ORAL CIGARETTES、勝負のワンマンに完全密着。
そして後日、山中拓也インタヴュー

『MUSICA 9月号 Vol.101』P.72より掲載

 

 13時に冷房のよく冷えた楽屋に入ると、ヴォーカルの拓也以外、みんな揃っている。ギターのシゲは廊下の隅でギターを爪弾き、ベースのあきらはソファーに座ってイヤフォンで何かを聴きながらベースを弾いている。何を聴いているんだ?と訊ねると、「この前の名古屋のライヴを確認してるんです」という。整理整頓、予習復習を案外ちゃんとするのが、このバンドだ。ドラムの雅哉は……どっか行ってしまった。

 13時30分からテクニカルリハーサルという、ライヴの演出部分の確認会が始まる。今回はバンドにとって初めての大きなワンマンにして、充実のツアーセミファイナルとなる。特別なライヴならではの演出が照明やステージ幕などにいろいろ施されているのだ。

 楽屋でシゲにツアーがどうだった?と訊くと「勉強になりっぱなしというか。こんな場所にこんなにも待っている人がいたとか、イベントなどでは気づかないじゃないですか。何度も感動しました」と目を輝かせながら、話をする。

 14時前にすっと拓也が入ってくる。何故彼だけが遅く入ってきたのか? それは病院に行っていたからである。実は拓也は喉の調子がかなり前から悪く、ツアー中もここまで細かいケアをしながらやって来たが、ここ最近、SiMのDEAD POP FESTiVALやイベントが重なったり、かなり煽りの強いライヴもしたので、この大切なワンマンを前に念入りに治療に行ってから会場入りしたのだ。

 その拓也が「お疲れさまです」と言って近づいてくると、とても強い「薬膳」の臭気がする。まるで中国の山奥から帰ってきた男みたいな匂いをさせている。「ここ何日間か、このライヴのために、薬膳しか口にいれてませんから(笑)」と言う彼も僕も、まだこの時にはライヴがあのようなことになるとは想像もつかなかった。というか、あのようにならないために万全を敷いてきたのだ。

(中略)

 演出進行の中で新しい曲が流れる。“カンタンナコト”だ。これは夏のシーズンに向けてライヴ会場・配信限定でリリースするCDの曲で、ある意味、コンサート中心の今の時代のロックバンド稼業と新しい音源の在り方を模索したCDとも言える。不穏な始まりから、だんだんと糸の隙間をぬって射してくる確信を言葉とグルーヴにして盛り上がりを見せる1曲。簡単ではないことが簡単に済まされたり諦められたりする今の世の中の喉元に笑いながらナイフを突きつける曲は、その音のキレと共にライヴの中でさらに育つ曲となるだろう。

 16時。予定よりだいぶ遅れてリハーサルが始まる――いや、まだ始まらない。サウンドチェックに随分と時間がかかっている。先ほどのテクニカルリハの試行錯誤を含めて、ようやく気づいた。このバンドとスタッフにとって、今日はかつてない勝負の日であり、比べようがないスケールでのワンマンに初めて挑戦する特別過ぎる日なのである。時間がかかるのも無理はない。

 16時30分頃から、ようやくリハーサルが始まる。静かに、しかし爆音だけが木霊しながら、ゆっくりとリハが進んでゆく。17時頃から拓也が喉に気を遣い出し、歌わないリハに変わってゆく。しかも時間がかなり押しているのに、曲がだいぶ残っているので、次々に途中で曲を切ってピッチを上げてゆく。

 THE ORAL CIGARETTESはMASH A&Rという、スペシャやHIPLAND、そしてA-Sketchとウチの会社で作ったロックプロダクションの最初のアーティストなので、感慨が深い分、僕自身はここまで批評的に見れない部分も多かったが、このリハーサルを見つめながら思ったことがある。それはとても斬新な音楽性を持ったバンドだということだ。彼らは四つ打ちギターロックの急先鋒と見られる部分もあるが、そういった曲は実は一部で、それ以外にもメタルとファンクとパンクの要素を曲毎に入れ込んだり入れ込まなかったり、なんと言うか、いわゆるミクスチャーほど活発な音楽性だったりパンクに根ざしたものでもない、インターネットやそこから生まれた音楽特有の鬱屈や箱庭感まであって、本当に「妙な」ロックミュージックを鳴らすバンドだ。こういったバンドがここまで2年ほどで駆け上がってこれたのは、1本1本のライヴで一人ひとりと本気で相対してきた結晶なのだと、まるで哲学のように複雑だけど、そのゾーンに入るとすっと胸の中に降りてくる拓也が綴った歌詞と爆音に囲まれながら思った。

 17時10分頃から新しい試み、アコースティックセットのリハに入る。今まで避けてきた「生音という道」を、このワンマンから導入。盛り上がるだけではなく、曲を感じて欲しいという彼らの気持ちが愚直な形になったパートだ。しかし前述した奇妙なアレンジも相俟って、アコースティックなアレンジに対応するようなシンプルな曲がないので、悩みがリハからそのまま聴こえてくる。このコーナーは、今後への課題もかなり多いものなのだろう。

 17時44分、リハ終了。楽屋に戻ってきたメンバーに「ほんと変な曲ばっかだな」と肩を叩きながらいうと、「それ、俺らには完全に褒め言葉です」と笑って返す。

 その後オープニングの合わせのため再びステージへ呼び戻され、再度リハ。結局開場の直前まで彼らは準備に余念がなかったのである。

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.101』