Posted on 2016.02.18 by MUSICA編集部

ヒトリエ、『DEEPER』で近作の変革が遂に結実。
その進化の所以を紐解く

「人と上手くコミュニケーションができない」とか
「あいつのことが嫌いだ、妬ましい」とか、
そういうものがもの凄く根底にあるんですよね
……切迫感とか不安をひっくるめた自分の存在を、
たぶん僕は肯定してあげたいんだろうなっていうのを凄く感じてます

『MUSICA 3月号 Vol.107』P.98より掲載

 

■『モノクロノ・エントランス』以降のバンド内部の変革と進化が大きく結実した、新しいフェーズを開くアルバムですね。今回は音楽的に明白に新しいアプローチをしているものがとても多くて、そして同時に、wowakaくんのパーソナルな部分も今までより色濃く出てきている作品になってると思うんですが、ご自分ではどうですか?

「本当におっしゃる通りですね。自分でもまさにふたつの切り口があると思っていて、そのひとつはバンドの音楽的な部分。今回はリズムアプローチとかアレンジの部分はバンドに委ねた部分が多くて、だから自分でも知らなかったアプローチがどんどん出てきた感じなんです。それこそデモの状態とは全然違う形になった曲も結構ありますし。今までアレンジは僕が主導で、デモをバンドに投げて精度を上げていく、もしくはそこで出たアイディアを僕が拾っていくって感じだったんですけど。でも今回は根本からバンドに頼った部分が大きいんですよね。それはそもそものリズムのアプローチの仕方もそうだし、ギターのカッティングに関しては、僕が弾くパートですら他のメンバーに投げてみたりしもして。それによって、自分でも知らなかった自分のよさ――メロとか歌詞の引き立て方がぽんぽん出てきたんですよね。それが自分にとっても凄く新鮮だったし、でもヒトリエとして3~4年活動を続けてきた中で彼らから自然と出てきたものだから、間違いなくいいんだろうなっていう確信もあったし。そういう、バンドの音楽的な部分でよかったところがまずある。そしてもうひとつは、メロや歌詞、歌だったりっていう部分で、まさに僕のパーソナルな部分が凄く直接的に出てきてるっていうことなんですよね。……去年『モノクロノ・エントランス』を出して、『シャッタードール』っていうシングルを出した流れの中で、僕自身が開けてきているって話をしたと思うんですけど」

■はい、そうでしたね。

「自分が今までよりも世の中に目を向けてる、お客さんのことを見ようとしてる、人とコミュニケーションしようとしてるっていう、それはこの1年フワッとあったんですけど、このアルバムが完成した段階でもの凄く具現化されたというか。今回はほぼ全部の曲の中に、自分と明確な対象がいて。今まで僕が組み上げてきた曲の世界っていうのはそうじゃなくて、完全に僕の中の想像で完結していて、他者を挟んでなかったんですよ。でも今回はそこに具体的な『あなた』だったり、『場所』や『もの』だったりがいるんですよね。その結果として、出てくる言葉がもの凄く自分の生活と密着してるし、思ってることを直接的に言えるようになった――それは凄く大きいんじゃないかなって」

■まさにそう思います。今までより心の中が直接的に出てきてますよね。

「自分に対して素直になったっていうのはありますね。僕は元々捻くれた人間なんで、斜に構えた姿勢が凄くあったんですよ。でもヒトリエっていうバンドの中だったり、ライヴで演奏して歌ってる瞬間に、自分に対して素直になれる部分が大きくなってきていて。それが結果、こういう創作にも結びついたんじゃないかなと思ってます」

■今のふたつの切り口をそれぞれ訊いていきたいんですけど。まずバンドのことで言うと、たとえば“後天症のバックビート”って曲が入ってますけど、音楽的に一番変わったのはリズムアプローチで、そしてそれが変わったことで全体の表情もメロディも変わっているという。今までは性急で前のめりなものがほとんどで、ミドルのものもオンビートだったけど、今回は黒っぽいバックビートもあるし、それこそナイル・ロジャース的なカッティングの、ディスコミュージック的なものもあって。

「一番最初に“後天症のバックビート”を出してくるのが、ほんとさすがですねとしか言えないんですけど(笑)。ウチらのアプローチとしてその曲が一番変わった曲なんですよね。それこそ元々全然違う形でデモを上げてたんですけど、バンドに渡した時に、曲の伝え方みたいのが『あまりにもいつもこれだよね』って話になって。それで1回根本から変えてみようってことで、アレンジをシノダ(G&Cho)に投げたんですよ。それで僕のバッキングのギターもシノダが考えて、それをハメて歌を歌ってみたら凄くよくて。リズムの抜け方とかは凄い陽気で明るいんですけど、そこにあのメロディと歌詞が乗っかった時の微妙な違和感が凄く心地よかったし、何よりやったことないものだから凄く楽しかった(笑)。で、その上で歌詞も書いて。だからこの曲はそういう変化が最初に起こった、かつ一番顕著な曲だと思うし、まさに『このバンドをやってきたからこそ新しい発見ができました』っていう曲なんです」

■これはアルバムを作っていく中で早い時期にできた曲なんですか?

「早めですね。元々デモとしては1年前くらいに僕が作ってたものなんですけど。それを引っ張り出してきて、メロがいいからやってみようかってことになってから、その手術作業を始めてできた曲で。なので当初予想していた完成形とはまったく異なったものになりましたね」

■たとえば“Swipe, Shrink”はステイするダンスビートがカッコいいディスコ的なアプローチの曲だし、ラストソングの“MIRROR”という素晴らしい曲も、ミドルの落ち着いたバラードなんだけど、中盤で突如ベースミュージック的な展開が入ってくるという。ここめちゃカッコいいよね。

「あれも突然生まれたんですよ(笑)。そもそもそのセクションがなくて、元々あった展開とサビをやって終わるっていう想定でいたんですけど、3人にアレンジを投げてスタジオに入ってもらう機会を設けたら、このセクションが加わって戻ってきて、『何コレ!?』って(笑)」

■なかなかこの流れにこれをぶち込もうとは思わないよね(笑)。

「僕は少なくとも絶対やらないですね(笑)。でもそれで『カッコいいじゃん』ってなって、そこに向けて改めて整合性を取っていってできたのがこの曲で。“Swipe, Shrink”はスタジオで自然とできた曲なんですけど、今回はバンドでできることに対して割とナチュラルになってみたんです。そういう中で自然と新しい彩りが見え始めるというか、新しいニュアンスを帯びてきて。そこを拾い上げてくのが今回は凄く楽しかった」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA3月号 Vol.107』