Posted on 2017.01.14 by MUSICA編集部

ぼくのりりっくのぼうよみ、シリアスな問題提起にして、
救いの提言たる新作『Noah’s Ark』を徹底的に解き明かす

意志を反映できない行為に可処分時間を費やして、
最終的には外的なレールに乗っけられてるだけみたいな人って、
僕からすると本当になんのために生きてるのかわからない

『MUSICA 2月号 Vol.118』より掲載

 

■宣言通りに『Noah’s Ark』というアルバムができ上がりまして。

「でき上がりました! イェーイ!」

■宣言以上に素晴らしいアルバムだなと思うんですけれども。

「嬉しい! やったぜ! 僕もめっちゃいいのができてしまったぞっていう気持ちです」

■おさらいになりますが、『Noah’s Ark』とはノアの方舟のことで、つまり音楽によって現代にノアの方舟を再現する、というコンセプトで作ったアルバムで。

「はい、そうです。聖書の話」

■そもそも、どうしてノアの方舟をテーマにしようと思ったんですか?

「……どうしてだったんでしたっけ?」

■おい。

「もう数ヶ月前の記憶が全然ない……たしかNoah’s Arkって言葉がカッコいいなと思ったのが一番最初の始まりだったと思います。1枚目のアルバムはバラバラに作ってた曲を集めたアルバムだったので、今回は1枚でちゃんと繋がってるヤツを作ったらどうなるのかな?と思ってて。だからNoah’s Arkをタイトルにして、その方向で、それに沿ってアルバムを作っていこうかなってイメージして」

■そのNoah’s Arkって言葉がカッコいいっていうのは、響きとしてなの? それとも、その救世主感がカッコいいなって感じなの?

「全部込みですね。字面もカッコいいですし、意味もカッコいいですし」

■夏に出したEP『ディストピア』に収録された3つの新曲も入っていて、かつ、そこで歌われているクオリアの喪失というものがアルバムの大きな肝になってるわけですが。

「はい、そうです」

■ぼくりりくんは、聖書でいうところの堕落した人間達を滅ぼすために神様が起こした大洪水というものを、現代社会における情報の氾濫になぞらえていますよね。要は、ネット始め膨大な情報の波に翻弄される今の時代の中で、人々が思考や意志を失って哲学的ゾンビになっているという現実を、大洪水による人間の滅亡に重ねているという。そういうことは、Noah’s Arkという言葉を思いつく前から考えていたんですか?

「考えてなかったわけじゃないとは思いますけど、でも具体的なことはNoah’s Arkって言葉を思いついてから掘り下げていった感じだったと思います。現代にノアの方舟を作るぞって思って、現代に洪水ってあるのかな?と考えてみたら、ある!みたいな。情報の洪水に呑み込まれて人間がクオリアを失ってるのってまさにそういうことなのでは、みたいな。よく見ると当たり前にそういうことが起こってるじゃん!と思って、それでどんどん方向性が決まっていった感じでしたね。今回、自分がやりたいことをやるっていうのももちろんそうなんですけど、最初に決めたストーリーをちゃんと自分で描いていこうっていうのがあって。たとえば一番最後の〝after that〟という曲は、その前の〝Noah’s Ark〟という曲で救われた後のことを描いてるんですけど、でもそれも別に完全に救われてるわけでもない、みたいな。救われてる人はいるんだけど、その裏には救われていない膨大な人間が存在してるという、ある意味ハッピーエンドではないという終わり方をしてるんですよね。そういう世界観にしようっていうのはあらかじめ決めて作っていったので。だから、最初の僕には凄い意志があって設計図を描いてるんだけど、そこからはただひたすらその設計図を実現するために曲を書いていくっていう……なんか週刊連載の漫画家さんってこんな感じなんだろうなって思いながら作ってたんですけど(笑)」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.118』