Posted on 2017.03.15 by MUSICA編集部

BIGMAMA、集大成的作品にして、
金井政人真骨頂の仮想現実『Fabula Fibula』完成!
メンバー全員&金井単独取材で本作を徹底解明
――Interview2:金井政人、『Fabula Fibula』全曲解説

Interview 2
この「架空世界の物語」に秘められた、
いつも以上に生々しく本音だらけの人間観&人生観――
金井政人、その脳内奥深くを探る全曲解説インタヴュー

『MUSICA 4月号 Vol.120』P.24より掲載

 

1 ファビュラ・フィビュラ

 

■全員インタヴューのほうで、これは音ができ上がった時に発明だと思った、だから発明をキーワードに歌詞を書こうと思い立ち、それによって「嘘」がテーマになって行ったという話をしてくれましたけど。

「そうです。人類の一番の発明品ってなんだろうな?と考えると、火を起こす道具だとかナイフだとか言う人もいると思うんだけど、僕は嘘という概念だなと思って。僕は自分の人生においてたくさん嘘をついてきましたけど、凄く後悔してるんですよ。嘘をつくことによってどんどん不幸になっていったと思っていて。そう考えると、嘘をついた人は本人も気づかぬ間に罰せられてるんじゃないか、そういえば人の不幸は蜜の味って言うなと思って、それで<甘い甘い飴玉に 他人の不幸は蜜の味>っていう歌詞を書いたんですよね」

■つまり、嘘をついた人はいつの間にか不幸=蜜の味の飴をなめさせられていると。

「そうですね。で、『嘘をつく=裏切る』だから、裏切りっていうテーマも出てきて。僕の中で裏切りのワードとして一番強く思い浮かぶのが<ブルータスお前もか>っていう言葉なんですけど、あれを覆して欲しいってずっと思ってたんですよ。<ブルータス私もだ>って言って欲しいなと思ってて。自分が何か裏切られた瞬間とか、信じてたものが壊れた瞬間とかに、それでずっと痛い目に遭い続けるのも癪じゃないですか。もう二度と同じ失敗なんてしたくない。だから、次に同じことが起きた時には<ブルータスお前もか>じゃなく、<ブルータス私もだ>って言い返すっていう、それを描きたいなと思って。物語としてもそのほうが面白いでしょ?って思うし」

■<ブルータス私もだ>っていうのは、つまりブルータスに裏切られているように見せかけて、自分もブルータスを欺いていたっていうこと?

「いや、『知ってたよ』ってこと。もちろん欺き返しの意味も含まれてはいるんだけど、でもそれよりも、お前に裏切られることはわかってたよ、だからの準備はしてあったよっていう、そういう意味合いでのこの言葉ですね。この世界って大概の場合、真面目な人がバカを見るじゃないですか」

■真面目で、かつ人を信じる人よりも、ちょっと小狡くて人を信用してない人間のほうが上手く行くケースは多々ありますよね。

「でも、その真面目さは絶対に間違ってないぞと思うので、そんな方に贈る私なりのメッセージ(笑)。まぁ僕の人生において何がどうこじれてこういう話になってるのかはご想像にお任せしますけど、でもこの1行に何か汲んでくれた人って、たぶん忘れないんじゃないかなっていう気持ちがある」

■裏切りというものがテーマになったのは何故なんでしょうね。

「それはもう単純に、裏切られたなっていう瞬間が多かったから(笑)。最近は特に、裏切られることを覚悟した上で信じてることが多くて。元々、裏切ってきたほうの人間だという自戒の念もあるというか。ずっと大切にするべきことを大切にできてなかった人生だと思っているので、逆に自分の番になった時に裏切られること前提でも自分が信じていくみたいなスイッチが入ってるんですよね。それが強くなってるのは、ここ数年、自分の音楽を信じてきつつも、裏切られたなっていう瞬間が多かったんでしょうね」

■それはごくプライベートなこと? それともBIGMAMA的なこと?

「どっちもありますね。単純にBIGMAMAを取り巻く状況へのフラストレーションだって絶対にあるし、何も納得いってない部分もあるし。あと、それ以上に自分の作ってる歌の人間像に対しての自分の裏切りみたいなところがあるのかもしれない」

■それってもうちょっと説明できる?

「“Sweet Dreams”とかで<夢を見よう>と歌っていますけど、それを歌う自分自身は本当に夢を見れているのか?みたいな。『そこ、俺ちゃんと乗っかれてるのかな、裏切ってないのかな?』みたいな、どこかでそういうものを迷いとして持っていて、それってバレてるんだろうなとか思ってて。………まぁでもやっぱり一番は、ここ数年で自分が大切にしてたものがどんどん崩れてきてしまったのが大きいのかな。ベタな話ですけど、人間関係の事故みたいなもんがあったんで。今までだったら逆を逆をって書いてきたけどーー僕は破滅的な状況の時にはハッピーなものを書いてバランスを取ったりするんですけど、とうとうこうならざるを得なかった感じ。そういう時期もあるのかなと思って、えいって書いてみました」

■さっき言ってくれた、裏切られることを 覚悟した上で信じるっていう――つまり人は嘘をつくものである、裏切るものである、それでも自分が信じることでそんな状況の中でもサヴァイブしてやる、そうやって幸福になろうっていう、そういう基本理念みたいなものは金井くんの中に強くあるのかなと思うんですけど。

「幸福になるじゃなくて、『不幸にならない』っていうのが理念としてありますね。幸せになるっていうことを実感するのは難しいけど、不幸せではないっていうのは割と確かなものだと感じやすい瞬間としてあるなと思ってて。それはちょいちょいMUSICAの連載でも出てくるキーワードなんだけど。あなたを幸せにするとは言えないけど、絶対に不幸にはしないっていう。『おまえ何ぬるいこと言ってんだよ』って思われるかもしれないけど、それって僕の中では誠実なんですよ。仮に僕とリスナーの間で約束できるのは、幸せにするっていうのは嘘なんですよ。不幸を遠ざけることができるっていうのは正しいんですね。座右の銘って括られると違う気がするんだけど、『自分がこの人生を歩んできて人に何か残せる言葉ありますか?』って言われたら、『不幸にはしない』だと思う。それは親父からもらったものを自分で解釈しただけなんだけど、その言葉は凄く大事にしていて。で、この言葉が姿かたちを変えてこのアルバムの随所に散りばめられてると思う」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA4月号 Vol.120』