Posted on 2017.12.19 by MUSICA編集部

再び充実期へと突入する気配を漂わせるゲスの極み乙女。
自分の状況を客観視しながら、無限に尽きない
クリエイティヴィティを発揮する川谷が語るその胸中とは?

当時あそこまでのことになったのに、それでも聴いてくれてる人がいて。
だからこれから伸びていけば絶対評価されるだろうなって思ってます。
いろんな雑音があってもちゃんと届けることができるのだとしたら、
本当の才能ってそこで評価されるじゃないですか

『MUSICA 1月号 Vol.129』より引用

 

(冒頭略)

■ゲスは今非常に畳みかけ始めました。10月10日に配信シングル(『あなたには負けない』)が出て、そこから始まったツアーでは『マレリ』という作品を会場限定で発売し。つまりここで一気にアウトプット期間に入っていて、“戦ってしまうよ”という既に先行配信されている久しぶりの大きいタイアップ曲も出てきていますし、しかもこれは来月に4曲入りのシングルになるんですよね。この辺の一連の流れは、どういうふうに考えての動きなのかを教えてもらえますか。

「いろいろ考えてっていうよりかは、単に何か出したかっていうのが大きいです。 “あなたには負けない”は久しぶりのシングルだったんで、ちょっとふざけようぜ、みたいな感じでその場で作ったものだったりしたんですけど。会場限定盤に関しては、ツアー回るしこれを機に昔の曲も聴いて欲しいなって思って。内容は本当にインディになる前の自主制作盤なんですけど、ちょうど“マレリ”っていう新曲もあったんで、会場限定ぐらいならちょうどいいクオリティの作品だなって思って」

■言ってる意味はわかる。ただ、それをプラスに捉えるならば、コアなファンにとっては近い距離に感じる楽曲がこの『マレリ』の中には入っているよね。その意味合いで絵音の言葉を借りると、「こんな状況にもかかわらず、こうやって僕達のところに来てくれてありがとう」っていう感覚を、この会場限定盤から感じたんですけど。そこまでは考えてなかった?

「いや、8月もツアーやって22本ぐらいワンマンやるっていうことで、来てくれる人には本当に感謝だなと思ったし、その中で一番近いファン向けのプレゼントというか、お返しみたいな意味合いは、確かにありましたね」

■そして『あなたには負けない』なんですけど。音楽性的にはDaft Punkの『Tron: Legacy』の頃のアナログエレクトロを彷彿としました。ゲスって人力性が強かったんだけど、ここではかなりエレクトロ色が入っていて、そこに何らかのモードチェンジを感じたんだけど。

「元々楽器を演奏せずに、マイクをヘッドセットにしてライヴやりたいっていうのがずっとあって。で、ゲスのキャラクターだったらふざけるやつがあってもいいかもって思って、それをこのタイミングだって思って作ってみました。だから打ち込みは適当にやったんですけど(笑)、チープな感じのほうが逆にいいかなって思ってたし、これに関しては音楽的っていうよりは、どっちかって言うとふざけたかったっていうことしかなかったです。なので逆に言うと、これはゲスじゃないとできないなっていうのがあったんですよ。indigoは『Crying End Roll』でまたさらに音楽的なほうに進んでいって、なんとなく俺の中での音楽的な評価はindigoのほうが高かったりするんで――でも、ゲスはまだ軽いイメージがあるんですよね」

■それがプラスに働いてるポップイメージもあるけどね。

「そうですね。まあindigoの場合は、まだみんながバンドの存在を知らないっていうのもあるんでしょうけどね。ゲスに比べたら圧倒的に知られてないので。ただ、そういう意味でindigoではこの曲は出しにくいし、とはいえ、DADARAYで“あなたには負けない”を出すのはよくわかんないじゃないですか?――当事者がメンバーの中にいなくて、それを他の誰かに歌わせんのもよくわかんないから(笑)」

■ていうか、やらされるほうは被害者だよね(笑)。

「だから自分でやんないとなって思って(笑)。それならゲスで1回消化しとかないとなっていうのがありました。あと文春とコラボとかもありましたけど、なんかああいうのもちょっと面白いと思って――なのでだんだんとタレント的な考え方になってきてたんですよね。自分の見せ方とかも、言ったら結構芸能人的になってしまったから」

■それは芸能かどうかっていうことは置いといて、自分自身に対する客観性が出てきたっていうことだと思うんだよね。それは月日が自分に対してそういう余裕をもたらしてくれたっていうのが大きいの?

「時間は経ったし、精神的に落ち着いてきたっていうところですかね」

■僕はあなたじゃないから本当のところはわからないんだけど、これをリリースするリスクはあったと思うんですよね。今の世の中って打って出ていっても、それでまた打ち負かされちゃうことってとても多いと思うんです。で、今回の(『あなたには負けない』のリリース)はそういうことになりかねない感じもあったんですけど、自分が知る限りでは、この作戦は当たったよね。

「いや、そもそも俺打ち負かされたことないですから。っていうか、みんな世間のよくわからない意見に寄り添って結局負けてるんですよ。みんな思ってもないことを言い合って世間の流れを作り出してたけど、俺は唯一自分を通したなって思ってます。で、さっきは見え方の意味でああ言いましたけど、僕は実際にはタレントじゃないんで、音楽っていう武器があって本当によかったなって思ったんです。タレントさんとか、俳優さん、女優さんとかってやっぱり使われる立場なので難しいと思うんですけど、でも僕らは自分が好きな時に曲を書けるから。別にレーベルがなかったとしても自分で歌って公開することもできるし、音楽ってやっぱり凄いなって思った。それで自分の生き方っていうのを見せつけれたんじゃないかなって思うし、これからもっと見せつけようかなって思ってます。…………人間って面白いなって思いましたね。本当今って直接に人に会って会話をするっていうことが、どんどんなくなってるじゃないですか。みんなTwitterとかで会話するだけで会話したことになっちゃうから」

■目の前の人に対して、目を見ずにLINEグループで会話する時代だよね。

「(笑)ああいうところの会話とか見てると、みんなそこにある情報に持ってかれそうになってるなって思うけど、俺はもうそういうの信用してないから。“あなたには負けない”を出した時のコメントとか見てても、流れ作業みたいに人を叩いてるし、みんなそういうのもわからないまま一喜一憂してるのって凄い情けないなと思って。俺は別に鉄の心を持ってるってことじゃないし、実際にそんなもん持ってないし。でもたぶんその人達とも会って話せば普通に話せるだろうし、だから人間って面白いなって思いました。ネットで全然自分じゃない人格を出してて、でもそれも3秒後には忘れてるし、本当どうでもいい使い捨てみたいな人間性なので、それをみんな気にし過ぎだなって思います」

(続きは本誌をチェック!)

 

text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.129』