中村一義、その圧倒的な音楽と対峙する
ソロ名義では約10年ぶりとなるオリジナルアルバム『対音楽』で、ベートーヴェンを引用しながら自らの音楽と徹底的に対峙した中村一義。渾身の作品を前に、類稀なる才能とその業の深さに潜む表現の真髄を紐解く
■アルバムの完成、おめでとうございます。これはロックという生き物のオペラです。
「やった、ありがとうございます!!」
■いわゆるロックオペラっていうのとも違って、ロックという生き物とか人生が完全にオペラになってる。何回聴いてもだんだん自分の捉え方が変わっていく……アルバムとして、生きている感じがするんですよね。いや、生きてる。
「ほんと嬉しいですね(笑)」
■ただ、作った本人からしてみれば、きっと「なんとかできた……」っていう感じなんだろうなっていう苦渋も響いてきて(笑)。その苦労や血までが全部見えてくる作品になってるんですけど。
「大変でしたね。たった9曲なんですけどね(苦笑)」
■だけど、これはそのコンセプトから9曲にしかならないわけだからね(ベートーヴェンの交響曲は九番までしか完成していないからです)。
「そうなんですよね。それがあって、初めから『合唱』(所謂第九のことです)で終わることを前提に1曲目の“ウソを暴け!”から作っていったんで、プレッシャーでしかなかったですね、もう本当に」
■中村くんがそもそもベートーヴェンから影響を受けてるっていうことはもちろん存じ上げてますし、『運命/ウソを暴け!』というシングルを聴いてそのコンセプトもわかってる上で、敢えてもう一度聞かせて欲しいんですけど、ベートーヴェンの交響曲の一番から九番まで、その全部とここまで一緒に繋がっていくような作品にしようと思ったのは、いつ頃からどういうプロセスを経てのものだったの?
「(100sとしてのアルバム)『世界のフラワーロード』を作り終わってリリースした時に、作ってる僕としてはすとんと幕が下ろされたようなところがあって。あれは小岩っていう原風景をモチーフにしたアルバムだったんで、それがすとんと落ちると、あとはもう自分しかない感じだったんですよね。で、そこにあったのが、自分の姿ではなくベートーヴェンだったというか……そうとしか言い様のない感覚だったんですけど」
(続きは本誌をチェック!)
text by 鹿野 淳
『2012年8月号 Vol.64』のご購入はこちら