Posted on 2014.08.22 by MUSICA編集部

syrup16g、復活連続企画・後編!
再生のニューアルバム『Hurt』全曲解説

「最低の中で 最高は輝く」
――もう誰も触れない、誰も届かないと思っていた五十嵐隆の世界が、
よりにもよってsyrup16gから羽撃いた。
アルバム『Hurt』全曲解説

『MUSICA 9月号 Vol.89』P.82より掲載

 

■この1ヵ月間ぐらい、久しぶりに世の中に出ていって、いろんな人にご挨拶をしたと思うんですけど、どうでした?

「インタヴューとかでいろんな方とおしゃべりして。そういう方と深い話をして振り返ったりすると、いろいろ解消されるところもあるし、発見することもあるし。でも、思い出すことで結構辛いこともあるんで、いいことも悪いこともありますけど(笑)。単純にこうやって外に出るのが新鮮ですね」

■よかったね、結論としては。

「うん。やっぱり1日の会話が3言とか、宅急便が来て『どなたですか?』みたいな、そんなことしかなかった日々だったから。今は、ちょっと楽しいなって思いました」

■じゃあ、毎月インタヴューやろうか。

「やだ! しゃべることないです(笑)」

■ははははは。今日は、そんな出不精な五十嵐の代わりに作品が世の中にどんどん出ていけばいいという気持ちも込めて、ニューアルバムの『Hurt』を微に入り細に入り全曲訊いていきたいんですけど。改めてアルバムが完成して感じてることを教えてもらえますか?

「うーん……休んでた時間を総括するような何かができるかなと思ったんですけど、そこまで掬い取れたかっていうと意外にちょっと疑問が残るような気もします。だから、何かを思い出すような作業よりは、レコーディングしてる時に感じたことをそのまま言葉にしていった感じが強いアルバムかなと思いますけどね」

■逆に言うと、このアルバムを作る一番最初のコンセプトは、この6年間のブランクの間の自分をこの1枚に閉じ込められるかもしれないっていうものだったの?

「単純にそれしか書くことがないというのももちろんありましたし……それができたら、何も意味がなかった時間になんらかの申し開きができるんじゃないかなと思ったりしましたけど」

■歌詞の面を置いておけば、今回のアルバムって――特に第1期の最後のアルバムと比べると顕著なんですけど――非常にバンド感とかグルーヴ感、そしてシューゲイズ感とかギター感というものがメインになってるアルバムだなと感じたんだけど。

「うん。やっぱアレンジに関しては凄くシンプルで。っていうのは、スケジュールの問題ももちろんあったけど、結局syrup16gでやるんであれば、再現性みたいなことも加味していかないといけないなと思って。そこに無理が生じないようなアレンジにしたいなと思ったら、グランジとかシューゲイズの方法論みたいなものが凄く成立させやすいんですよね。それは昔から思ってたんですけど」

■今言ったグランジとかシューゲイズって、五十嵐の好きな音楽なわけで。それって、自分が好きな音楽だから自分の世界観と合わせやすいっていう話なのか、もしくは、ある意味客観的なスタンスでその音像をプロデュースした時に、syrup16gっていうイメージとそれが合うっていう感じなのか、どういう感じなの?

「キタダ(マキ/B)さんと大樹ちゃん(中畑大樹/Dr)とスタジオで合わせた時の手っ取り早い共通言語というか……スタートがそういう下地だったわけだから、新しく自分の方法論が見つかってないんであれば、そういうアレンジとかソングライティングの方法は昔のプリミティヴなやり方で合わせていったほうがバンドとして上手く回るんじゃないかなって思って。それは一番ありました。向こうのプレイヤビリティを考えたら如何様にも対応してくれるのはわかってるんですけど、『何考えてるのかわかんない』と思われるのが凄く怖いのと、それを説明するだけのテクニックや方法論をまだ見つけられてなかったので。だから、自分のイメージを言ってわかり辛いことを要求して混沌としていくよりは、強い曲、強いメロディとわかりやすい構成、思春期性に近い初期衝動感が透けて見えるような曲のほうが、たぶんメンバーも『五十嵐はこれがやりたいんだな』ってわかってくれるんじゃないかなと思ったんです」

 

1.Share the light

 

■では、1曲目からいくよ。この曲がアルバムの中で一番激しいよね。一番激しいし、バンド感もある。一番最初に聴いた時、アラブのロックみたいな感じがした(笑)。

「アラブ? アラブってどういう音楽性なんだろう?」

■Aメロでさ、歌メロとギターのリフがユニゾンしてるじゃん。

「ああ、音階がちょっと中東っぽいっていう? そっかそっか。でも、どっちかって言うと、あのガッガッガガガッていうのは、もの凄くやり切れないぐらいのみじめな気持ちになったことがあって」

■それはこの曲を作ってる時?

「そう、今年なんですけど。そのリズムを無意識に弾いてました。ただ普通に6弦を上から叩いてるだけなんですけど。なんのコードも押さえてなくて、ただ殴りつけるように叩いてるだけ」

■この曲がいきり立って聴こえる理由は、やり切れなかったからなの?

「うん、やり切れないみたいな気持ちだった気がする。あんまり最初からギターを持ってガッガッて叩きつけるような衝動的なギターとの向き合い方はしてないんですけど――」

(続きは本誌をチェック!

text by 鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.89』