Posted on 2015.05.19 by MUSICA編集部

ASIAN KUNG-FU GENERATION、時代に問いかける
確信のロックアルバム『Wonder Future』に託した意志

俺は「頑張れ」とは直接言わないよ。
凄く辛辣なことを書いていくよ。
でも、その上で、だからこそなんだってみんなの背中を押すような1行を
最後に書くこと、最後の1行で「でも大丈夫だ、allright」って書くこと、
それくらいしかロックバンドがやるべきことなんかないと思ってる

『MUSICA 6月号 Vol.98』P.36より掲載

 

■本当に素晴らしい、これぞロックアルバムと言うべき名盤だと思います。

「ありがとうございます」

■人間のエネルギーがそのまま音になっているような、ロックバンドの音の鳴りそのものから生まれる力に圧倒され、昂揚させられる作品であると同時に、非常に痛烈な形で社会や我々自身への警鐘を歌いながら、それでも前に向かって背中を押していくロックという音楽のメッセージと願いが強く表れた作品で。サウンドも歌詞も、真っ向からアジカンというもの、ロックというもの、そして表現というものに向かい合った、非常に重要なアルバムが生まれたなと思うんですが、ご自分ではどうですか。

「どう響くのかまったくわからない」

■ほんとに?

「ここまでわからないのは初めてってくらい、わからないですね(笑)。はっきり言うと、流行り廃りを意識しないで作ったのは初めてかもしれない。そういうことにも敏感ではありたいなと思ってるから、これまではずっとその時々で世界的に流行ってるものに対するアジカンなりの目配せがあったし、それはソロでもそうだったんですけど。でも今回、こういうプリミティヴな音像やフィーリングに回帰してるのは、世の中の流行り廃りとか一切関係なく、今これをやったほうがいいんじゃないかっていう自分の直感だけに基づいてやったことなんですよね。だからこの作品をどう受け取ってもらえるか、特にサウンド面に関しては全然わからない。ギターとベースの音がいいなってなるとは思うけど、でもこれが懐かしいねってなるのか、新しいものとして映るのか、どっちか自分でもわかんないっていう。歌詞に関しては、9割方上手くいったと思ってるんですけど」

■歌詞に関しては、明確に新しいアジカンのロック文体を確立したなと思いましたよ。それでも9割なんだ。まぁ自己評価としては高いですけど。

「そうですね、自分が当初やろうと思ってたことに関しては9割ぐらいできたんじゃないかな。1割は、やっぱり真面目さが出ちゃった(笑)。ほんとは<僕>みたいな一人称は廃したかったんだけど、やっぱりどうしてもちょっと出てきちゃいましたね」

■でも<僕>っていう言葉が具体的に出てくるのって9曲目の“額の中の囚人”と、ラストソングの“オペラグラス”ぐらいで――。

「あと5曲目も<僕がいつか>って一瞬だけ出てくる」

■あ、そうか、“Eternal Sunshine / 永遠の陽光”のラストの部分。

「そうなんですよ。文脈的には<僕>にしなくても書けたんだけど、これは<僕>にしたほうが伝わるんじゃないかって。それを切るか切らないかは迷いましたけどね。<僕>を出すのは、いわゆるアジカンらしさに通じるところなんで切りたかったんですけど(笑)。本当は二人称と三人称だけで行きたかった、できたら三人称で全部書けたら最高だったんだけどね」

■それは“スタンダード”の頃からおっしゃってますよね。

「うん。けど、なかなかそれも難しいなっていう(笑)」

■でも私は“オペラグラス”の<僕らの舞台>と歌う、この最後の最後ではっきりと<僕ら>という言葉を出したところに凄くグッときましたよ。

「そうなんだよね。今回はそこでというか、“オペラグラス”で全部を回収してます。この曲の<覗き込んで>っていうところや、その中盤以降の展開からアルバムの1曲1曲が別の舞台だったんだっていうイメージがはっきり浮かぶし、かつ、それが僕らの街のことだったんだっていうことがわかるっていう……回りくどい出し方ですけどね(笑)。まぁでも、どう響くかはわからないけど、でも自分達がやりたかったことをきっちりやり遂げることができたっていう手応えはあります」

■まずサウンドや音楽性の部分から訊いていきたいんですけど。さっき初めて流行りを意識しなかったっておっしゃいましたが、今回のサウンドは30代以上の世代、つまり90年代までに青春を過ごしてる人達にとってはザッツ・ロックというべき王道的なロックバンドサウンドであり、逆に若い子達にとっては新鮮なものとして響くかもしれない音像で。今回のアルバムってアジカンの中でも初めてラウドロック的な匂いの強い作風ですけど、2000年代以降のラウドロックって非常にハイファイな音像だから。

「そうですね、バキバキで、粒立ちのいい」

■解像度の高い音像というかね。

「今の主流になっているコンピュータでタイミングをジャッジしていろんな音を貼っていくっていうやり方は、そもそもロックとテクノとかの真ん中ぐらいのものだと思うんだけど――」

■昔でいうとデジタルロックなんて呼び方をされたりもしましたね。

「そうそう、デジタルロックがそのままロックの主流になったから。で、このアルバムは最近のマナーも一応入ってますけど、でも基本的には昔のやり方というか、90Sのやり方で作ってますからね」

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text by 有泉智子

『MUSICA5月号 Vol.98』