Posted on 2015.07.16 by MUSICA編集部

東京スカパラダイスオーケストラ
feat. 尾崎世界観(クリープハイプ)、
『爆音ラヴソング/めくったオレンジ』
レコーディング現場に独占密着!

東京スカパラダイスオーケストラ、
尾崎世界観と新しいページをめくる!
その第一声、そして隠密レコーディングにグイグイと密着した独占企画!!

『MUSICA 8月号 Vol.100』P.58より掲載

 

 これは、7月29日にドロップされる、東京スカパラダイスオーケストラの新しい両A面シングル『爆音ラヴソング/めくったオレンジ』の制作ドキュメンタリーとインタヴューである。

 この号が発売される日に、今回のスカパラのシングルがクリープハイプの尾崎世界観によって2曲とも歌われていることが告知されるのだが、すでに2曲ともラジオなどでのオンエアは始まっていて、一聴した人はすぐに「もう、言わずもがな、誰が歌ってるか明瞭じゃないですか!」という声が響き続けている。そうです、尾崎世界観、その人です。

 この話が最初に届いたのは通常の仕事の流れではなく、メンバーからのお話だった。いや、というか振り返ればそれは今年の1月29日まで遡る。

 この日、Zepp Tokyoで開催されたクリープハイプのライヴで、僕はばったりギターの加藤と出逢った。彼やドラマーの欣ちゃんこと茂木とはライヴ会場でよく逢うのだが、この日は目が合うと加藤のほうから寄ってきてくれて、「本当に凄いバンドだよねえ」と目を輝かせながら話して来たのだ。僕も呼応して談笑し、話題が変わると、その度に「でもさあ、本当に大好きなんだよね」、「今、一番愛してるバンドなんだよ」と、すぐにクリープハイプ愛に話を戻し、まるでその様は初恋を友人にミスドで語るようなものだったのだ。加藤が言うには、メキシコ&南米ツアーの時にはいつもクリープハイプを聴いていて、他のメンバーにも聴かせて懇切丁寧にバンドのことを語ったらしい。

 ならばスカパラだからして、「ご一緒して、歌ってもらえばいいじゃない。とても新鮮なセッションになると思うし、尾崎の世界観はどっちかと言えば、スカパラぐらいのキャリアの人と波長が合うと思うし」と言うと、「そりゃやりたいよ、尾崎くんと。夢のようだよ。だからまずはマネージャーをクリープのマネージャーに紹介しようと思ってて」と、実務的な部分に踏み込もうとしていると話してくれたのだった。ちなみにその日、別れてから加藤から5通のラインが届いたが、恋の熱にうなされたものばかりで、これが実現したら花束ぐらいでは済まされないなと思った夜だった。

 その後、この愛が現実のものとなり、今度は尾崎から「こんなチャンスもないし、なかなか自分もゲストとか踏み切れないし、何しろ加藤さんが凄い愛してくれるんですよ、丁寧に。だから信用して飛び込むことにしました」という話を聞いた。

 その後、尾崎と加藤と欣ちゃんと、バリトンサックスの谷中と、さらに芸人にして10-FEETのNAOKIにそっくりなサバンナの高橋さんと一緒に飲み明かし、このコラボレーションの決起集会もし、そこで、歌詞を谷中と尾崎のふたりで詰め始めていることを聞いた。谷中が今まで他のシンガーと歌詞を共作したことがなかったわけではない。10-FEETの時はTAKUMAと、アジアン・カンフー・ジェネレーションとの時は後藤と、共に言葉の積み木を重ね合ったわけだが、本来、谷中の詞も尾崎の詞も、個人的な美学がこってり練り込まれている、パーソナリティの濃度が言葉の一つひとつの中で溢れているもので、それが共作として合わさること自体が楽しみだなあと思った次第である。

 というわけで、いざレコーディングの日程も決まり、あとはきっちりと音出して歌って、そして楽しむように闘う(by 谷中)だけ。その時が遂に来た。

 

6月10日水曜、横浜 LANDMARK STUDIO

 

 横浜みなとみらいにあるスタジオでこの日のレコーディングは行われた。この日と次の日の2日間で、ダブルAサイドの2曲共にオケ、つまりスカパラ9人の鳴らす音を録音し、尾崎の仮歌を録って、歌詞を完璧に詰める予定である。メンバーは13時集合。駐車場でトロンボーンの北原さんとバッタリ。車から北原さんがデッカいスイカを取り出し、重そうに持ちながらスタジオに向かう。これだけでもう、レコーディングが楽しくなるのがわかるでしょ?

 13時からスカパラ9名はそれぞれのサウンドチェックをしながら、だんだんテンションを高め合っている。9名みんなが誰かに合わせたりするわけではなく、それぞれ勝手に音を出したフレーズを弾いている。何で合わせないの?と訊ねると、谷中が「レコーディングはなるべく最初の一発をオッケーテイクにしたいんですよ。ミスがなければ最初の一発が一番いいに決まってるんだから」と話す。「その最初の一発がいいのは初めて気合いが入った者同士の音が合わさるからでしょ。その時まで簡単に音は合わせないんですよ」と話す。

 14時、尾崎世界観が来場。なんか微妙な表情で入ってくる。

「下の立体駐車場で、マネージャーが車をぶつけちゃって。縁起悪くてすいません!」と苦笑いをしている。体は無傷だったので、ここはスカパラメンバーみんな大爆笑。「嬉しいよね、こうやってちゃんとネタを持ってきてくれるからね」とみんなで盛り上がる。その盛り上がる野郎っぷりを前に、若干尾崎が引き気味になり、これもまたスカパラとクリープハイプの表向きな表情の見事なコントラストがのっけから浮き彫りになる。

 14時43分、モニターチェックがすべて問題なしということで、レコーディング開始!という号令が、エンジニアの渡辺省二郎さんから発される。その声に呼応するスカパラの面子は、それぞれ「そっか、早く終わらせて中華街行こう」、「いや、野毛の店がいいらしい」だの、飲みのことしか考えてないワークロッカーらしい声で返す。ひたすらみんな、ガハハガハハガハハと賑わいが途絶えない。その様子をちょっとだけ輪の外で尾崎が眺めている。

 そんな尾崎に、今回の企画の発起人でもある加藤が、「遂にきたな、尾崎くん。この日が」と、まるで『スクール☆ウォーズ』の山下真司ばりに胸を張って語りかけ、尾崎が照れながら「嬉しいです」と答える。尾崎世界観は、こういう熱さを自分は持たないが、人から浴びせかけられると、思いの外喜ぶアーティストである。彼は常に「信用したいしされたい」という壁と相対している人なので、その信用をスカパラのようにストレートに浴びせかけると、本当に安らぐのだろう。一歩二歩三歩引きながらも、とても調子がよさそうだ。

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text by鹿野 淳

『MUSICA8月号 Vol.100』