Posted on 2015.08.17 by MUSICA編集部

エレファントカシマシ、滾る激情と新たな名曲を握りしめ、
ニューシングル『愛すべき今日』でここに帰還

バンドだっていいことばかりじゃない。
それは生きていれば当たり前のことだけど、
その当たり前がより重くのしかかってくるし、
それを跳ね返すエネルギーも、若い頃と同じようには持てないという絶望感もある。
でも、俺はたぶん、この何年間かのそういう苦しみから解放されたんだと思う

『MUSICA 9月号 Vol.101』P.40より掲載

 

■できましたね、遂に。

「そうですねぇ」

■表題曲をはじめ曲自体の手応えとしても相当達成感があるのではないかと思いましたし、新春の武道館以降、半年にわたって制作に専念してきた中で到達したシングルであるという意味でも強い達成感があるのではないかと思うんですが。まずはその思いの丈を聞かせていただけますか。

「思いの丈ですか? 思いの丈かぁ…………去年の10月くらいからずっと曲を作り続けてまして……やっぱり俺は曲を作るのが何しろ好きだから、合間を見てはずっと作ってたのね。で、“愛すべき今日”も11月にはあったんです。ただ………たとえば俺自身も、本っ当の意味で体調がよくなったのは本っ当にここ2ヵ月前くらいなんですよ」

■それは、3年ほど前に難聴になって体調を崩して以来?

「そう。もちろんお医者さんにも耳は治ったって言われていたんだけど、でも本当の意味で絶好調になってきたのはようやく、ここ2ヵ月くらい。だから今振り返ってみれば“あなたへ”を作っていた頃はリハビリに近い――もちろん当時としては精一杯ですよ? でも、あの頃はやっぱりまだ曲を作り始めたばっかりっていう感じだったし、そういう中でコンサートも一生懸命やったりしてて。で、前回の取材で話した通り、メンバーもみんな中年になってちょっと身体の調子が悪くなったりもして……そこはもう、なかなか若い時とは違うっていうさ」

■そうですよね。

「でも、シングルは作ろうと思ってたし、アルバムももう3年も出してないからみんなに出せって言われるし、何より俺自身がアルバムを出したいから、そういう中でも一生懸命制作をやっていったわけですけど……ただね、そうやって中年になって若い頃のようには行かないことも出てきているけれども、この4人のバンドとして本当にいい味が出てきていて。写真を撮るにしてもビデオを撮るにしても、それこそローリング・ストーンズのような――ほら、ストーンズって4人が立っているだけでもの凄くカッコいいじゃない? ミック・ジャガーとキース・リチャーズがただそこに突っ立ってるだけで音が鳴ってくるっていうさ。そういう、この4人だけにしか持ち得ない空気みたいなものが、ようやくエレファントカシマシにも生まれ始めているっていうのは間違いないと感じていて」

■いや、本当にその通りだと思います。

「そうなんです、ありがとうございます。それで――――鹿野さん、とにかく僕はこの“愛すべき今日”という曲が大好きなんですよ!」

■宮本さん、僕もこの曲は素晴らしいと思うんですが、ちょっとだけ時系列を整理させてもらってもいいですか?

「はい(笑)」

■まず、前回の取材は今年の頭、武道館公演の直後だったわけですが、その時にここからライヴ活動を休止して制作に専念し、アルバムへと向かうんだという話をしていただきました。で、今のお話だと、この“愛すべき今日”は去年の11月にはすでにあったという――。

「ありました」

■ということは、武道館の時には他にも新曲を披露してたし、それこそ“めんどくせい”の原曲は2013年の復活の時からあったわけで、曲自体はいろいろ選択肢があったと思うんです。その中で、宮本さんはこの“愛すべき今日”で闘おうと選んだってことですよね。

「そうです。“愛すべき今日”はその時からみんなの評判もとてもよかったし、僕も非常に好きだったんですよね。まぁほんとはね、“めんどくせい”ができた当時(難聴の治療後、復活に向かう時期)はこの曲をシングルにしてもいいなとも思ってたんですよ。でも僕がそう言うと、みんな聞こえないフリするの。みんな押し黙っちゃって、僕の発言がその場をスーーッと通り過ぎていくんですよねぇ」

■なんで?

「久しぶりに復活するのに『めんどくせい』はないだろうって(笑)」

■ははははははははははははははは、それはもっともな意見だ。

「ま、僕も確かにその通りだなとは思ったんだけどさ(笑)。ただ、“めんどくせい”にしても“あなたへ”にしても、あの頃は曲ができただけで嬉しかったから。で、“Destiny”は、実は曲としては随分前からあったものなんですよね。それに対して、この“愛すべき今日”は本っ当の意味で――さいたまスーパーアリーナもやって武道館もやって、気持ちも行動も前向きになった上で、何千回か目のリスタートとして、心を込めてる実感を持って作り上げた曲なんですよね。だからね、僕は本当にこの曲が好きだし、手応えを持って作り上げることができた曲なんです。そういう曲です」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.101』