Posted on 2016.03.17 by MUSICA編集部

赤い公園、奇天烈な純情がポップに乱れる
『純情ランドセル』を津野米咲と共に解く

自分がようやく、赤い公園という渦の中に入ることができた。
……よくも悪くも赤い公園のガンは自分だったんだなってことを痛感して(笑)。
それに気づいた時はものすっごい狼狽えましたけどね

『MUSICA 4月号 Vol.108』P.138より掲載

 

■1年半ぶりのアルバムが完成しました。まずは、米咲ちゃん自身は今回のアルバムをどんな作品だと捉えてますか?

「素直な作品。素直でまっすぐで、いろんな計算よりも心を使って作ったアルバム。だから今、これまでで一番評価に怯えている(笑)」

■怯えてるの?(笑)。

「うん(笑)。もう逃げられないっていうぐらい素直な感じだから」

■なるほど。私は凄く自由なアルバムだなということ、そしてもうひとつ、このアルバムは赤い公園のポップス、津野米咲のポップスを14の形に昇華した作品だと感じたんですよね。ロックっぽいとかオルタナっぽいとかそういうこと一切関係なしに、どの曲も素直にポップスたることをめざしているというか。実際、曲調的にはバラエティ豊かなんだけど、でもそういう姿勢で作られてるし、そういう曲が並んだ作品だと思う。

「そうですね、実際、曲のバランスのよさは結構まぐれで(笑)。今回はアルバムの全体像がまったく決まってない中でとにかく1曲1曲録っていったから、ずっとどんなアルバムになるのか見えてなかったんです。今までだったら、この曲はダークサイドな役割を果たす曲とか、この曲では救いがあるとか、それぞれの曲の役割を決めてやる感じだったんですけど」

■それは曲だけじゃなく作品に関してもずっとそうだったよね。作品ごとに「今回は自分達のこのサイドを出そう」ということに意識的だった。

「うん。でも、今回はそれができない状態だったんです。だけど全体像が見えないからって不安になってても仕方ないから、とにかく1曲ずつ心を込めて、心が伝わるように作ろうって。“デイドリーム”や“喧嘩”みたいな曲も、“Canvas”や“KOIKI”みたいな曲も、ただ聴いてくれ!届け!っていう気持ちを込めてやりました。だから『これは赤い公園のポップじゃないサイド』みたいな考え方をなくして、全部A面の気持ちで作っていって――まぁA面の気持ちで“喧嘩”を書くって、なかなかサイコパスだと思うけど(笑)」

■まぁこれは割とアヴァンギャルドなアレンジだからね。

「はい、このアルバムで唯一そういうものかも。でも、本当に全部A面の気持ちでやってた。まぁ最後の最後まですっごく悩んだんですけどね(笑)。ギター録りにしても何にしても、最後の最後まで音にしがみついたし」

■それくらいこだわったし、振り絞ったと。

「そう、不安でしたしね。でも、今思えば理想的な制作だったかもしれないですね。先にコンセプトを決めたがるのって、自分が安心したいからっていう以外に理由がないんですよ。先に課題が出てれば、それをこなせばいいわけだから。でも今回は、私ですら見えてない中で4人で切り開いていった感じが凄くあって。すっごい疲れたしすっごい不安だったけど(笑)、でも凄く充実してたし楽しかったなぁと思う」

■今の話の中でふたつ訊きたいことがあって。ひとつは、コンセプトを決めない状態で作った裏側には、赤い公園や自分の作曲家としての可能性をもうちょっとフラットに試してみたい、みたいな意識があったの?

「要はそういうことだと思うんですけど、でも最初にそれをちゃんと意図してたというよりも、結果論ですね。事務所変わった瞬間からずっと構想は練っていたんですよ。だから1年ぐらいかけてるんですけど、その中で私の制作のやり方がだいぶ変わっていったんですよね」

■前の体制の時はお題をもらうことが多かったけど今はそれがないって、『KOIKI』の取材の時に話してくれましたよね。

「そうなんです。事務所もレーベルも替わってますから、新しいスタッフの人達と作っていく中でやり方も変わってきて、だんだん自然とメンバーに頼りたい瞬間がたくさん出てきて。……たぶんというか、間違いなく、私はこの1年は凄くいっぱいいっぱいだったと思うんです。ずっと一緒にやってたディレクターはもういないし、でもせっかくめぐり会えた人達と一緒に情報交換しながらやりたいし、みたいな状況の中で、凄い不安もあったしいっぱいいっぱいで……だから今回は、やれることをするしかなかったんですよね。で、やれることをするしかないんだったら、それを最大限に心を込めてやるのが誠意だろうと思って。だからさっき最後まで音にしがみついたって言いましたけど、音だけじゃなく、人にも凄いしがみついた。お互い勝手がわからない状態の中でなんとかコミュニケーションを取ろうとするのもそうだし、メンバーに対してもなんとか曲に思い入れを持ってもらおうとしたこともそうだし……だからコンセプトどころじゃなかったっていうほうが正しい(笑)。でも、そういうやり方でやってみるのは、自分にとって凄くワクワクすることでした」

■今のコミュニケーションの話もそうだけど、つまり米咲ちゃんは今回、なりふり構わず「いい曲」を作るために振り絞っていったんだ?

「ほんとにそれだけだった(笑)。でも、前だってやろうと思えばできたはずなのに、それを状況が変わったことにかこつけて今やってるっていうことは、気づいてないだけで自分の中に自信は少なからず育ってたんだなとも思います。だからこそメンバーに投げるというか、託すこともできたし――前は、かなりデモを作りこんでたんですよ」

■そうだよね。作曲時点でほぼ完成系まで作り込んでたもんね。

「そう。でも今回は曲の骨組みだけをメンバーにポンと投げるってことをして。それって昔の私だったらあり得ないというか、100%まで至ってない原案をそのまま渡すなんて死んでもできないことだったんですけど(笑)。でも、今回はそれができたんですよね。で、何よりも今までで一番、自分自身がメンバーのひとり、赤い公園の25%を担った感じがあって」

■それは作曲家・津野米咲とはまた別の、バンドの中でのギタリストとしての津野米咲っていう部分の話だよね?

「そうです。プレイヤーとしての自分というか、ギターという役割を持つメンバーとしての自分。というか、とにかくギターを弾くのが楽しい(笑)。それは実は、曲を作る上でも結構大きなことなんですよね」

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text by有泉智子

『MUSICA4月号 Vol.108』