Posted on 2016.05.16 by MUSICA編集部

BUMP OF CHICKEN、バンド史上空前の規模を誇る
「BFLY」密着連載開始!
第1回、ツアー初日・京セラドーム大阪公演

愛しき日々と命、その一つ一つに、
一本一本のマッチで一本一本のロウソクを灯し、
それがスタジアム全体にまで灯せるようになった
稀代のバンドBUMP OF CHICKEN。
初のスタジアムツアー、そのゲネプロと初日に完全密着。
かつてない緊張の中から見えた、変わらない覚悟と一期一会への想い

『MUSICA 6月号 Vol.110』P.22より掲載

 

(前半略)

4月9日 京セラドーム ツアー初日

 

 10時にドーム前駅に着くと、すでに本当に多くの人だかりができ上がっていた。みんな共通しているのは、白いビニールバッグを下げているのと、小さな段ボール箱を持っていること。ちょっとだけおかしな光景だ。

 実はこのビニールバッグを持ちながら何個もの小さな段ボール箱を抱えている人を心斎橋の駅辺りでも多数見かけたので、なんなのかと思い彼らの手元にある段ボール箱の中を覗いてみたら――。

 「ニコル」か。

 フジ画伯がかつて描いた名キャラクター「ニコル」のぬいぐるみが遂にグッズ化され、それを待望していたファンがみんな買い求めているのだ。

 10時30分、メンバー4人が入ってくる。みんな本当にツヤッツヤの顔で入ってくる。名実共に初日っぽい感じがする。「今日の天気よくて、ほんとよかったよな」と増川。「うんうん」とフジ。一通り楽屋を徘徊してから、4人はそれぞれご飯やコーヒーをたしなみ始めた。

「ゆっくり休めたんだけどさ、起きたら起きたで腰が痛くて。ベッドが変わるとダメだね、ふふふふふ」とフジは笑いながら、今回のツアーグッズの青いシャツを羽織った。これもまた、とても初々しい。その横で増川が「いいね、この味噌汁。貝が入っている」と、食事をしながら独り言のようにつぶやいている。その独り言に「貝というか、しじみだけどね」とさらりと返すフジ。

 みんながニコルの段ボールを抱えて街は大変な光景になっていたり、これまた新しいグッズであるガチャポンのピンズの交換会を開いたりしている景色を見た話をすると、フジと増川が反応し「凄いよね。もしかしたらニコル持っている人達って、スニーカーの新作をたくさんの人が買って持っているような感じなのかもね」と、スタジアムの外の光景を想像しながら、ご飯を進めている。

 11時、升が場内パトロールから戻ってくる。「今回、今までで一番サブステージが遠いよね。霞むぐらい遠い(笑)」とみんなに話しかける。そこから「でも、あのメインステージからサブまでボールを投げれるのって、やっぱりプロ野球選手は凄い」だの「しかもミットめがけて投げられるなんてあり得ない」だの、スタジアムでのライヴでなければなかなか出てこない会話をしている。

「いろいろな気持ちだよ。本当にいろいろな気持ちを抱えて今日が来たよ。でもやることはやったって言えるだけのことはやってきたんだよね。もうほんと週3でスタジオ入って、毎回4時間練習してさ。これが本当に楽しくて(笑)、ツアー終わってもずっとやろうねって言ってるんだよね。で、それ以外の日は身体を休めたりトレーニングをして、もうほんとこのツアーのためだけに過ごしきたよ、『20』が終わってからずっとね」と、チャマがわざわざ話をしにきてくれる。「まもなくサウンドチェックです」とスタッフに升が誘われ、ステージへと向かっていった。

 11時50分、「まだいたんだ」と増川を観てつぶやいたフジが(サウンドチェックは升→チャマ→増川→フジの順でステージに入ってゆくのです)、腹に力と空気を込めながら、「あっえっいっおっうっ」と発声練習を始めた。リハーサルへのカウントダウンだ。

 増川はローディーと一緒に機材の細かい確認と出音のニュアンスを、実際にギターをつま弾きながら繰り返している。11時58分、「ヒロさんまもなく」という声と共に、増川がステージへ向かった。フジはさらに喉をゴロゴロゴロゴロと転がしている。ほとんどのツアーに帯同した者なりの個人的な感想としては、この日の4人はまだ今までのツアーの初日以上の緊張感が若干見えるものの、だんだん自分らなりのペースを取り戻しているようにも見えた。何にせよ、緊張しているにしても緊張していないにしても、今の彼らはその状態を受け止めるだけではなく、楽しむ心のスペースを持っている。

 発声練習と共にどんどん鋭くなってゆくフジの声を前に、「ばっちりだね、届くよ」と言うと、「いやまだまだだよ。もっとだよ。まだ(声が)寝てる」とひと言。もう、ライヴが始まるまでの自分の声のカウントダウンもお手のものという感じだ。

「行きますか」とひと言残し、12時15分、最後の男、フジも、ステージへ向かった。

 12時28分、“パレード”からリハがスタートした。ワンコーラスやり、モニターのチェック。ほとんど問題なし。次の曲は2番のAメロまで。さらに次の曲は、1番のサビから2番のサビまで。

 チャマだけが、モニターの音量、音の位相を、細かくいろいろ試しているが、それ以外はもの凄くコンパクトにリハが進んでゆく。そんな中で“宝石になった日”だけは、増川が気になっている曲らしく、頭からやりたいと申し出て、イントロから始まってゆく。

 その後も淡々とリハーサルが続いていく。メンバーはいつも以上に淡々と演奏をするだけだが、ステージ上の演出が「淡々と」という言葉とはあまりにも不似合いなほどのエモーショナルな空間を彩っている。中には本物の宇宙が垣間見えるような、ドームという巨大な円形空間ならではのプラネタリウムみたいなステージ映像があったり、参加型のアトラクション性が高い映像があったりしながら、ステージも音も演出も順調に仕上がっていく。

 12時57分、サブステージへ移動。アコースティック系の楽器から流れる繊細なアルペジオが、音の背骨の線を残しながらも木霊する。改めてこのバンドの音楽性と本質が、スタジアムでツアーする規模に辿り着く奇跡を目の当たりにしていることに気づく。そのことはこの完全密着連載で今後も綴っていこうと思う。

 サブステージでのリハーサル辺りから、4人の表情にも笑顔が増えてきた。昨日は同じ場所を歩いてメインステージへ戻りながら鼻歌を歌っていたフジは、今日は声を張り上げながら歩いている。言うまでもなく喉を開くためだ。と同時に「だからなんだってわけじゃないけど、デッカいなあ! ここからあそこまで何メートルあるの?」と、社会科見学に来た子供のように舞台監督に問いかける質問王子になっている。

 再びメインステージでのリハーサルが再開された。ステージの上をレールに乗ってLED画面が右に左に動き続けたり、何しろ今回の光を中心とした映像演出は、そのからくりに気づかない程スムーズな動きを見せながら、裏側ではかなりラジカルな動きを見せている。

 その後もリハーサルを行う曲は、ほとんどが1コーラスだけ。チャマが話してくれたように、東京での度重なるリハーサル、そして順調に終わったゲネで不安を解消したからこそ、スタッフチェックのためのリハとして割り切り、あとは本番へと温存している。

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA6月号 Vol.110』