Posted on 2016.07.17 by MUSICA編集部

くるり、時代の先端と普遍性が同居する名曲
『琥珀色の街、上海蟹の朝』リリース。
岸田繁の真意をじっくり問う

自分が味方にならへんと誰も味方してくれない。
どれだけ綺麗ごとを言わずに先に行動するかとか、
相手が心を開いてくれるための権利を勝ち取るかが
重要やなと最近は思ってる

『MUSICA 8月号 Vol.112』P.100より掲載

 

(前半略)

■この曲はくるりがこれまで正面切ってはやってこなかった音楽性に突っ込んだ素晴らしい名曲です。何故こうなったんですか。

「実際にじゃあ新曲作ろうってなってポロンポローンとやったり、いくつか頭の中に思い浮かんでるものを形にしてみた時に、どれも自分があまり興奮しなかったんですよね。それで、これまでくるりの名義ではやってなかったこと――自分はそういうの好きやったり通ってたりするけど、今までくるりとしてはやってこなかった部分のネタを引っ張り出してきて。それをレゴブロック作るみたいにワーッと作っていったんです」

■それがこのブラックミュージックの骨格だったってことですか?

「そう。で、なんとなく組み立てた段階でメンバーとかスタッフに聴かせたら、意外と好反応やったんで。その時までは、意地の悪い言い方やけど『はいはい、やっぱみんなこういうの好きなのね』みたいな気持ちもあったんですけど(笑)。でも、そこからはもう何を思って作ったとかはないです。ただ完成させようと思って、然るべきミュージシャンにしっかり参加してもらってバーンと録った感じ。って言うと面白くないけど(笑)」

■「やっぱみんなこういうの好きなのね」というもの言いにも表れてると思うんですが、こういうブラックミュージック、ファンクやヒップホップ的なR&Bって、ここ数年の世界のポップミュージックのメインストリームにあるものじゃないですか。で、日本でも去年くらいから波は来ていて。くるりはここ最近、クラシックや民族音楽のような現行のポップミュージックからは外れた場所にある音楽的要素をポップミュージックに放り込んでいくということをやってきたと思うんですけど、この曲に関しては今の時代性、もっと言えば今の「旬」に真っ向から臨んでいったと言える。で、それをくるりがやるとどんな凄いことになるのか?を提示したようにも思える。そういうことは岸田さんの中に思惑としてあったんですか?

「ないです(笑)。結果、そういうチョイスをしていったっていうのはあるんですけど、旬がどうこうよりも、くるりとしてその封印を解いたってことです。いわゆるブラックミュージックと言われるものは昔から好きでよく聴いてるものやったし、京都にいたから、アマチュアでバンドやってた頃は元々そういう音楽をやってたんですよ。黒人がやってる音楽って、元を正せばゴスペルで、戦前のブルース、その後のジャズっていう流れやないですか。京都ってそういうの多いんで、くるりの前のバンドやってた時は、ほんまにそこに乗っかったものをやってたんですよね。そもそもギターもそうやって勉強していったし。ギター始めた頃はハンチング被って股上の浅い千鳥格子のパンツ履いてワカチョコワカチョコやってたんで(いわゆるファンキーなカッティング奏法)、もしプロになるとしたらワカチョコやる人になりたいと思ってし(笑)。で、バンドのグルーヴの作り方とかも、ルーツを知った上でストーンズみたいな演奏をする、とか」

■ストーンズのルーツはブラックミュージックですからね。

「そうそうそう。ほんでステージ上ではストリート・スライダーズみたいな格好する、みたいな(笑)。そういう美学があった時代やったから。でも、まだ形になる前の学生やった自分達は、おっさんらのそれに勝てへんから。だから前のバンドを解散した時点で、そのポジションで勝負するのはやめようって思った。それで組んだのがくるりだったんですよね。もっくんも割といい感じにグルーヴしてる16ビートっぽい横ノリのドラムやったし、佐藤くんはニットキャップ被って短パン履いてジャンプしながらチョッパーしてる人やったんですけど、そういう人達を従えてるんやけど割とオルタナ、グランジに寄ったスタイルでくるりを始めたわけです。だから意図的に黒人音楽っぽいものを避けてきた歴史はあるんですよね。もちろんそういう要素やマナーはあちらこちらに入ってはきてるんですけど」

■そうですね、それこそ初期の頃からその要素は散見されます。

「ちょっとアシッドジャズっぽい要素とかはやっぱり好きやからね。自分達の時代でいうところのチャカ・カーンとかローリン・ヒルとか――」

■The Brand New Heavysとかもありましたね。

「そうそう、そういうの大好きやったんで。The Brand New Heavys、インコグニート、ジェームス・テイラー・カルテットとか……くるりはそういう意味では、それへの反抗の歴史やったと思います。でも時代がひと周りして、若い人達で『どこで拾ってきたん?』みたいなネタを駆使して作ってるバンドも出てきて。たとえばHiatus Kaiyoteとかね。そういうのは佐藤くんのほうが詳しいけど、佐藤くんがラジオでよくかけてるような今っぽい黒いバンドを聴いてると、今こんなの流行ってるのねっていうのが安心材料になってるところはあるかな。あとはOKAMOTO’S、特にハマやショウみたいな黒い音楽が好きな人が自信持ってドーンとやってるのは見てて美しいなと思うんで、そういうのはどんどんやって欲しいし。ま、話を戻すと、今回の作品に関しては、自分が通ってきたけどくるりでは意図的に封印してた引き出しを今使ったら、一体どうなるんかな?っていう実験ではあったと思います」

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text by有泉智子

『MUSICA8月号 Vol.112』