Posted on 2016.09.15 by MUSICA編集部

RADWIMPS野田洋次郎のソロプロジェクト・illion再始動。
新作『P.Y.L』から彼のインナーワールドへ踏み込む

音楽との向き合い方が変わったんだろうなって思う。
音楽が自分の断片でしかないっていうか。
昔は無菌室でミニマムに作ってたのが、
今は意地でも種を保存しようとしてる感じもあるし、
でも同時に、そこまで気張ってるわけでもなく、
もっとナチュラルな行為の気もするし

『MUSICA 10月号 Vol.112』P.30より掲載

 

■先日RADWIMPSのアルバム『君の名は。』が発売され、さらに11月23日にもオリジナルアルバムがリリースすることも発表された中、illionのセカンドアルバムがリリースされます。つまり、なんと8月、10月、11月と3枚のフルアルバムを出すという驚異的なペースなんですけど。

「ねぇ? こういうのってギネスとかないのかな(笑)」

■これは多作モードなんですか? それとも、いつもこのペースで制作しているけど世の中にアウトプットされてないだけ?

「いや、多作モードだと思うな。ずっと作ってる感じです、今は」

■こうやってインタヴューするのは2015年6月の『ピクニック』以来になるんだけど――。

「あ、その頃からずっと作ってますね。その辺りで劇伴が終わったから……ん? 違う、劇伴の完成がほぼ見えたのが今年の4月とかだ。時系列わかんなくなってきた(笑)。『×と○と罪と』が3年前?」

■うん、あれが2013年12月上旬だから、そろそろ3年くらい経つ。

「ということは一昨年は何やってたんだ? あ、ツアーやって映画撮ってたのか。となると去年は……そっか、劇伴作ってたのと、対バンツアーもやってたんだ。智史(山口智史/Dr)が休養に入ったのも去年か……」

■そう考えると激動の3年間ですよね。

「ほんとですね(笑)」

■illionは、2013年の3月にファーストアルバム『UBU』をリリースして以来のアルバムなんですけど。これはいつ頃から取り掛かってたの?

「劇伴が終わった直後からですね。最初はEPの予定だったんですけど(7月発売の予定で告知もされていた)、作ってたら止まらなくなっちゃったんで、これは絶対アルバムにしたほうがいいなと思って。そもそもは日本でライヴをやろうっていう話があって、それが決まったから、だったらリリースがあったほうがライヴをやるモチベーションとしてもいいよねっていうことで、軽く作ってみようかな、みたいな始まりだったんだけど。で、“Miracle”っていう曲が去年の秋ぐらいになんとなくあって、他にもいくつか自分が今面白いなと思う音楽的な試みがあったから、それを試してみようぐらいの気持ちで始めたら、どんどん曲ができちゃって(笑)。そのほとんどがEPに入らないのかと思うと切ないなと思って、相談させてもらった感じですね」

■“Miracle”を作ったのは、まだライヴの話はない頃?

「いや、ちょうど話をしてたぐらいの時期かな。でも“Miracle”はillionやるぞっていうんじゃなくて、ふと家で曲を作ってた時に出てきた曲で」

■ファーストの『UBU』は、そもそも初めの段階としては、イルトコロニーのツアー後、『絶体絶命』を作る前にひとりでスタジオに入ってた期間に作っていた曲があって、その出口を作ってあげたいという想いがあったこと、プラス、震災の後に自分ができることをどんどん形に残していきたいっていう意識になったことが大きかったという話を前にしてもらったけど。今回の『P.Y.L』はどうだったんですか。

「うん、『UBU』はやっぱり震災が大きかったです。その作ってた曲をアウトプットしようって思ったきっかけも震災だったし。でも今回はそれとは全然違う動機というか……やっぱり、音楽との向き合い方が変わったんだろうなって思う。音楽っていうものを対象化するというよりは、自分の断片でしかないっていう感覚になってるというか。だからどこを切り取ってもらってもいいよっていう感じだし、どこを切り取ってもなんとなく自分で面白いなと思えるし。それがいいか悪いかわかんないけど、今はそういう距離感になってるから、それはやってしまおう、みたいな感じが強いですね。で、トラックメイキングみたいなことが面白くなってきちゃったから、その楽しさもあって。なんか初めて楽器を手にしたみたいな喜びで曲が作れている感じがある。それがこのillionのアルバムになってるっていう感じかな。昔は無菌室でミニマムに作ってたのが、今は意地でも種を保存しようとしてる感じもあるし、でも同時に、そこまで気張ってるわけでもなく、もっとナチュラルな行為の気もするし。今はほんと、ご飯食べる、トイレ行く、寝る、音楽作るっていうのが全部並列にある感じ。その中でも、このアルバムは特に今のモードを象徴してると思う。映画音楽やったりRADやったりプロデュースしたりっていう中で、一番ニュートラルな今の自分の状態を表してるアルバムかな。だから、初めて『聴きながら眠れる』アルバムが作れたなと思ってて。今まではそういう音楽を作ろうとも思ってなかった――意地でも聴けっていうか、聴いた人の耳を離さないっていう意識だったけど、今回はBGMとしても聴けるものになってると思うし。そのどっちにも行けるようになってきた自由さを感じてる」

■『×と○と罪と』もRADWIMPSの音楽の在り方を大きく拡張した、凄く自由な作品だったと思うんだけど、でもやっぱり、映画に主演したり『ラリルレ論』を出したりした頃から凄く風通しがよくなったというか、他者に対して積極的に開いていくようになった印象があって。それがここ最近の音楽活動にも表れている気がするんですが。

「それは凄いあります。人と何か話したりとか、1個、人が介在するだけで新たに引き出される自分みたいなものを最近より痛感しちゃうから。だから『P.Y.L』もトラックメイキングで何人かコラボレーションしてたり。11年経ってやっとそういう違うモードを知ったのは嬉しいことでした」

■そうなれたのは何故なんでしょうね。たとえば、ここまでRADWIMPSをやってきた中で、自分達だけで突き詰める音楽の形みたいなものがひとつの到達を迎えた、もうどこに行っても揺るがないものが自分の中に生まれた、みたいなタイミングがあったからなの?

「あぁ……あったと思う。たぶん『×と○と罪と』はひとつやり切った作品だったと思うから。だからあのアルバムを出した後で、事務所とも『正直、この先このまままったく同じ感じではやれないと思う』っていう話もしてたし。で、俺自身が開いてる時だったから、こうやって新海さんとの出会いもあったし…………でも、やっぱり10年やってきた自信はひとつ大きな武器なんだろうなと思います。気張り過ぎなくても自分らしいものができるっていう自信が今はあるっていうか。昔は自信のなさがモチベーションだったけど」

■だからこそストイックだったし、人と違うことをやりたいという想いが強かったところもあるよね。

「そうそう(笑)。でもようやく10年経ってちょっとは自信持っていいんだなって思えたし、自分を信じられる部分が増えてきたから、それを純粋に信じてやってみようっていうモードになれた。だから10年前の自分に比べたら相当優しいし(笑)、いい感じだと思います」

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text by有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.112』