Posted on 2016.12.15 by MUSICA編集部

THE YEAR IN MUSIC 2016 年末恒例!
この1年の音楽シーンを振り返る総括大特集

90年代からこの国の音楽シーンを築き続けてきたアーティスト達と
新たな意志と感性を響かせる新世代の台頭――
2016年という年がこれからの音楽の未来に指し示したものとは
一体なんだったのか。この1年の音楽シーンを徹底考察

『MUSICA 12月号 Vol.117』P.8より掲載

 

有泉「2016年は、音楽シーンの潮流がいよいよ変わっていってるなということを強く感じた1年で。一昨年くらいから、若い世代から生まれてくる音楽の多様性が増しているという話はしてましたけど、それが水面下の話だけではなく、表舞台にまでちゃんと上がり始めてきたなという感覚が強くありました。その一方でいわゆるロックバンドシーンでも新しい世代のバンド達がメインの一翼を担い始めていっていることも含め、音楽シーン全体の動きが非常に活発化しているような印象があるんですよね。鹿野さん的にはどうですか?」

鹿野「無責任に聞こえるかもしれないんだけど、僕は2016年は総体的には『よくわからなかった年』だなっていう感覚があるんだよね」

有泉「というのは?」

鹿野「それこそ細分化されたトピックスはたくさんあるんだけど、全体としてはよくわからない、単純に時代感や世代感やムードで『こういう年だった』と括ることのできない年だった気がする」

有泉「なるほど、それはわかります。たとえば少し前だと『今年は四つ打ちロックが席巻した年だったよね』みたいな言い方ができたり、フェスシーンというものがそのままその年のシーンの情勢を表しているようなところがあったけど、今年はそういうわかりやすい括り方はできないですもんね。ひとつのジャンルが時代を先行するのではなく、それぞれが活発化することで多様性が増しているが故のカオスというか」

鹿野「そうそう」

有泉「でも、それは凄くポジティヴなカオスだなと思うんですよね。近年、あんまりこういう感覚は味わってなかったような気がします」

鹿野「もちろん可能性の種は撒いた年だったと思うからネガティヴではないけど、でも楽観的にポジティヴというのは個人的にはしっくりこないけどね。そういう状況の中で僕がまずひとつ思うのは、アジカンから影響を受けた2000年代中期以降のロックの流れ――つまりフェスブームの進化と共に発展してきたロックバンドシーンというのが、ひとまずここで一周した感じがあるなということは思っていて」

有泉「それは私も強く感じます」

鹿野「具体的に言うと、去年まででKANA-BOONやキュウソネコカミといったバンドがメジャーデビューしてフェスシーンの中心バンドになったことで、一周した感があるのが今年だったんじゃないかなと思う。で、そうなった場合に、またバンドロックというものが新陳代謝をして新しいフェーズに向かったり、新しいバンドがそこに台頭していくってことが起こるのが理想的なはずだし、もちろんKEYTALKやBLUE ENCOUNT、04 Limited SazabysやTHE ORAL CIGARETTESみたいな勢いのいいバンドがいるのは承知の上なんだけど。ただ、それらはKANA-BOONまでとシーン的にも世代的にも大差がないものだと思っていて。そうなると、その先が明確に見えるようで、イマイチ見えないなって感じるんだよね。今までと同じスケールでみんな活動していくのかって言うと、変わってくる可能性もあるなと思っているし。ただ、別にネガティヴな意味は孕んでないんだよ。何故なら、それでも相変わらずライヴハウスシーンには新たなバンドが次々に登場しているからなんだよね。ただ、そういう意味でも、今年はある程度大物の然るべき人達がちゃんとした作品を出したりとか、ちゃんとした活動をしてきたところに集約されていくなという印象がある」

有泉「『Butterflies』をリリースして初のスタジアムツアーを回ったBUMP OF CHICKENだったり、『君の名は。』を機に改めてブレイクしたRADWIMPSだったり、デビュー25周年にして近年になくフレッシュなロックバンド衝動を鳴らす『醒めない』をリリースしたスピッツだったり」

鹿野「そうそう。あと僕は勝手に『復活三羽烏』と呼んでるんだけど、THE YELLOW MONKEY、Hi-STANDARD、そして宇多田ヒカルの復活。そういう復活組も含め、90年代の終わりから長く続けてきたバンド達がちゃんとシーンの中心になっていたということは、言い方を変えれば、正統な活動を続けてきた人達がちゃんと光を浴びていたってことでもあるし、逆にこの10年の流れの中で、そういう人達が必然的に浮かび上がる状態になっていたということでもあって。つまりサイクルがあまりにも速過ぎたここ10年間のロックバンド事情の功罪だとも思ってる。あまりにも速いスピードでクルクルと主役が入れ変わり続けてきた結果、前世代の人達の安定感が際立ったというふうにも言えるんじゃないかなって」

有泉「なるほど、それは確かに。10-FEETのシングル『アンテナラスト』が、4年ぶりの新曲リリースだったにもかかわらず、キャリア最高位のオリコン5位にランクインしたのもひとつの例かもしれないですね。リスナーの興味もどんどん移り変わるし、若手バンド界って3~4ヶ月に1回くらいのペースでガンガン新曲切っていかないと忘れ去られるっていう恐怖とみんな闘ってるようなところもありますけど、そうじゃないところで長きにわたって自分達の音楽の地力を磨き、10年、20年と活動を積み続けてきたバンド達が、既存のリスナーも離さず、かつ新しいリスナーも引き寄せ、結果として刹那的なシーンの移り変わりを諸共せずに大きな存在感と充実を示してるという」

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text by鹿野 淳×有泉智子

『MUSICA1月号 Vol.117』