Posted on 2017.04.16 by MUSICA編集部

Base Ball Bear、名作アルバム『光源』完成。
バンドの核心たる「青春」が新たな解釈で迸る新作を、
小出祐介と共に全曲解説!

 

青春って未解決事件だと思う。
二度と解決できないのはわかってるんだけど、
「まだなんかあるんじゃないか」って思うことが、
自分の創作の源にあるから

『MUSICA 5月号 Vol.121』P.36より掲載

 

(前半略)

■このアルバムはとてもたくさんの要素で紐解ける作品ではあるんですけど、まずはざっくりと、ふたつの要素で語っていきたいと思います。まずは音楽性。音楽的に楽曲の半分が非常にBase Ball Bear然としていて、もう半分が新しい挑戦をしているのもので、しかもそれが11曲交互になってるなと思いました。もうひとつは、歌詞が全面的に青春回帰していて、しかも“Transfer Girl”などの過去の楽曲からの続々編のようなものもある。まず、歌詞が青春回帰したのは、どういうベクトル変換によって生まれてきたことなんですか?

「それは、『C2』を作ってた時に“不思議な夜”とか“どうしよう”っていう曲ができて――あのアルバムはトータルで見て理屈っぽいアルバムなんですけど、『なんでここで急に、青春と今が地続きみたいなことを歌ってんだろう、俺!?』って、ちょっと不思議だったんですよ。だから今回本格的に制作に入った時、そこについて凄く考えてたんです。2010年に3.5枚目っていう位置づけのアルバムを2枚同時リリース(『CYPRESS GIRLS』、『DETECTIVE BOYS』)して以降、どんどん青春性みたいなものが曲からフェイドアウトしていったんですよね。それとクロスフェイドするように今度は、現実味が前面に立ち上がってきて。あとは、自分探しじゃないですけど、自分と向き合うような内面的な作品にどんどんなっていったんです。なのに“不思議な夜”みたいなのが、ぽっと出てきたのが自分でも意外だったんですよ。その理由を探ることにヒントがあるんじゃないかと考えていった結果、それ(青春)自体をやっと対象化できたっていうことなんじゃないかと思って。……インディーズのファーストって『夕方ジェネレーション』っていうアルバムなんですけど、あのアルバムを作った時に感じてたことって青春じゃないですか、どう足掻いても」

■あれはまだ現役高校生の頃?

「盤が出たのが19歳の時なんですけど、作り始めたのが18の終わり……高3の終わりくらいからなんで、青春という範囲からはみ出せないんですよ。なにせ青春の当事者なんで。ただ、自分の当時のリアリティっていうのは教室にはなかったんですよね(笑)。学校が嫌いでしょうがなかったし、クラスメイト全員死ねってしか思ってなかったから。で、それを歌にするって手もあるんだけど、それだとあまりにも毒々しいし、真っ黒じゃないですか(笑)。そうじゃなくて、音楽としてはギターポップとかキラキラしたものが好きだったし、そういう音楽がやりたかった。だから必然的に当時の憧れというか、『こうだったらいいな』っていう空想とか妄想とか、そういう世界観の曲を作っていくんですね。それからインディーズで何枚か出して、メジャーデビューして。……僕がターニングポイントだなって思うのは、2010年の頭にやった1回目の武道館なんですよ。あの時の僕の気持ちをはっきり言うと、もの凄い挫折感だったんですね」

■え、あの年始にやった?

「そう、13日の。武道館で演奏してる最中のことを思い出すと、今でも悪い鳥肌が立つくらいの挫折感を覚えて。演奏中にどんどん心がボキボキボキって折れてく感じというか……。実力のなさみたいなものを目の当たりにしちゃって、『ここで何やってんだろう』ってなっちゃったんですよね。思い描いていた感触と全然違うっていうか」

■それは洋楽好きな自分としての、武道館ライヴのイメージと実際の景色との違い? それともBase Ball Bearが武道館に立つことの、自分の中のシミュレーションとのズレみたいなこと?

「単純に実力の足りなさとか、至らなさでしょうね。自分達だけを武道館に観にきたお客さんっていうのを目の当たりにして……しかもメジャーデビューから3年くらいの集大成を見せます!みたいなことを言っといて、いざ出てったら全然上手く歌えないし上手く演奏できてないし……。あと、それまでの作品で伝えたかったことが『伝わってんのかな?』とか、そんなことが本番中に凄い気になり出しちゃって。どんどん心が遠ざかっていくんですよ、ステージから(笑)。『いかんいかん! 熱中しよう熱中しよう!』とかって言い聞かせるんだけど、引き戻せず。表面的には『大きいワンマン大成功しました!』とかって言ってるんだけど、心はもうめちゃめちゃ折れてて。音楽やっててはっきりと挫折を感じたのが、その時の武道館で。自分と向き合うことを濃く意識するようになったのは、やっぱあれがきっかけなんですよね」

 

(中略)

 

1.すべては君のせいで

 

■歌詞が凄くショッキングないじめの歌ですし、しかもいじめてる人に恋煩いしているようにも思えるし。読み出したらキリがない歌ですよね。1曲目から教室とか学校っていうものが出てきて、非常にこのアルバムを象徴している曲なんですけど、これはどこから生まれてきたんですか?

「“すべては君のせいで”っていうワード自体は、今回の制作とかじゃなくて結構前から持ってたんですよね」

■人のせいにしたくてしょうがなかったんだ(笑)。

「そうそう(笑)。いや、なんかラヴソングでこういう言い回しっていいなと。『恋の責任転嫁』っていう(笑)。作ったのは2曲目だけどアルバム全体の構成としてはこれが始点になってるので、教室から始めようかなと考えていきました。……今までってリアルな教室の風景はあんまり歌いたくなかったんですよ。だけど(青春が)対象化されたという自覚が、そこから始めようっていう発想をもたらしたんでしょうね」

1行目で<ある日突然幽霊にされた/僕を置き去りに今日も教室は進む>と。言ってみれば、みんなから無視をされたことを歌ってます。

「これは僕の実体験ですね」

■そして<落とした定期蹴られて遠のく/追いかけた先かがんだ君と目が合って>って、この君という存在は実際には……。

「いないです(笑)」

■そっか。やっぱり君はいなかったんだ、小出くんの教室の中には。

「でも、ハードロック雑誌を読んでるくだりは本当です(笑)。実際は『Player』なんですけど。友達がいないから、ひたすら教室で『Player』読んでるっていう(笑)。譜面とか見てると集中するから、他のこと考えなくて済むんですよね。その音楽雑誌で周りと遮断してたのが中1の最初で」

■そのことを歌にしたいなって思ったのはどうしてなの?

「青春を未解決事件だって思うのは、『なんかまだあったんじゃないか』って思ってるからなんですよ。たとえば、もし当時嫌いだった人と今もう1回同窓会とかで会って、酒酌み交わして『ごめんね』とか『意外といいやつだったんだな、お前』とかで解決されるかって言ったら、やっぱそうじゃないんですよ。今報われたいわけじゃないし、もう二度と解決できない閉じられた時間の出来事だから。ただ、どうやっても解決できないのはわかってるんだけど、そこに頭は戻って『まだなんかあるんじゃないか』って思ったりすることが、自分の音楽活動だったり創作っていうものの源にあるんだな……っていう意味も込めて、アルバムも『光源』っていうタイトルにしたんですけど」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA5月号 Vol.121』