Posted on 2017.06.19 by MUSICA編集部

米津玄師、自らのロック原体験の記憶を探り、
これまでずっと鳴らしたかった音を鮮烈に響かせた
シングル『ピースサイン』をリリース!

社会があればその中にはいろんな問題があって、
それを解決しようとみんな何かを為していくわけじゃないですか。
そういうものの根っこにある何かをちゃんと射貫きたい。
環境にも時代にも関係なく存在する普遍的な事実を見据えたい

MUSICA7月号 Vol.123P.76より掲載

 

■今回の“ピースサイン”は非常にストレートな王道のロックソングで。ではそれが何の王道かというと、2000年代以降の日本のギターロックの王道で、それはつまり、米津くんにとっては自分のロック体験としての原点でもあるんじゃないのかと思うんですけど。で、カップリングの“Neighbourhood”はちょっとOasisのアンセムを彷彿するような、UKロックの王道感がある楽曲になっていて、それも面白いなと思ったんだけど。

「ふふ、そうですね(笑)」

■ともあれ、今回こうやって“ピースサイン”という曲で王道のロックソング、かつ自分の原点的なものを非常にストレートに出してきたのはどうしてなのかっていうところから伺えますか?

「おっしゃる通り、自分の中の原点的なところを確かめてみた結果、この曲ができたっていう感じなんですけど。まず最初に『僕のヒーローアカデミア』というアニメの主題歌になるっていうところから始まった曲でもあって。自分は小中学生の頃、アニメとか凄い観てたんですよね。『僕のヒーローアカデミア』は週刊少年ジャンプの漫画で、少年のために作られた漫画でありアニメであるわけですけど、そういうものを観て育ってきた記憶は自分の中にもあって。で、その主題歌を自分が作るってなった時に、じゃあ何を拠りどころにして作ればいいのかって考えたら、昔観てきたアニメとか、自分が小中学生の時に好きだったものっていうところに立ち返らざるを得なかったっていうのはあって。それでそういうことを思い返した時に……『デジモンアドベンチャー』っていうアニメがあって、それが本当に凄く好きだったんですよ。ウチらの世代の金字塔みたいなアニメで。俺と同じ世代のヤツらと話してると、『あれ観てたよね』みたいな話になるアニメなんですけど(笑)」

■ある世代の『ドラゴンボール』とか、ある世代の『ワンピース』とか、そういうのに近いものですよね。

「そうそうそう。それが自分の中に凄く色濃く残っていて。かつ、そのアニメの初代のオープニングテーマの“Butter-Fly”っていう曲があるんですけど、自分の中でのアニソンってそれなんですよね。で、その“Butter-Fly”がいわゆるロックテイストの曲で、凄くエモーショナルな感じの曲だったんです。だから、自分の中の少年のためのアニメのアニソンって振り返ってみた時に、どうしようもなくそれがあったんですよね。小学生の頃の自分は『デジモン』を観て、“Butter-Fly”を聴いて、毎週もの凄くワクワクしていたし、未だに“Butter-Fly”を聴き返すと当時に関してのこととかをもの凄く鮮明に思い出すことができる。要は、それだけの強い力を持った作品だったんだなっていうことだと思うんですよ。で、やっぱり自分もそういうものを作りたい、やるからにはそれくらいの力を持った作品を作りたいっていう気持ちは強いので。だから結果として、小学生の頃の自分と対話をしながら、『こういうのはどうだ?』、『ああいうのはどうだ?』ってあの頃の自分にお伺いを立てながら作っていて………その結果、こういう形になったっていう感じですかね」

■ただ、子供達の希望となるようなものであったり、エネルギーになるような作品を作りたいっていうのは、米津くんの中に一貫してあるひとつの大きなテーマだと思うんですよ。子供の頃の自分と対話をしながら楽曲を作っていくというのも、今回が初めてではないと思うし。

「はい、そうですね」

■今話してくれたように、今回の曲が少年のためのアニメの主題歌であり、そこにリンクする自分の原体験というものが色濃く反映されているということはとてもよくわかったんですが、とはいえ、それにしてもここまでストレートで明快なロックソングになったのはどうしてなのかっていうことをもう少し聞きたいんですけど。

「昔から自分はこういうものを作りたかったんですよね。作りたかったというか、自分としては作ってるつもりだったんですよ。子供が観たり聴いたりしてワクワクするようなものをずっと作ってるつもりだった。それはVOCALOIDでやっていた頃もそうだし……自分としては一貫してそういうものを作り続けてるつもりではいるんです。だけど、そういうふうに受け止められてもいないんだろうなと思う側面もあって。昔の話ですけど、『diorama』出したくらいの頃に、俺はそうやって子供のために音楽作ってるつもりではいたんですけど、『君の作品って漫画にたとえるとアフタヌーンっぽいね』って言われたことがあって。『あれ? 俺はジャンプのつもりだったんだけどな』と思って(笑)」

■はははははははは。

「でも、そう言われるのも、今となってはわかる感じもするんですね。そことの闘いって言うとおかしいですけど、自分はずっとこの“ピースサイン”みたいな曲を作りたくてやってきた部分があって。それがようやく、『僕のヒーローアカデミア』っていう漫画が今の時代に誕生して、それが週刊少年ジャンプの看板を背負うような作品で。実際、作者の堀越耕平さんもその看板を担おうと頑張りながら作っていると思うんですけど。そういうものが現れて、そういう作品と自分が関わることができる機会が与えられて、結果この“ピースサイン”っていう曲ができて………だから、この瞬間を待ち望んでたんじゃないかなって自分では思ったりもしますね」

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text by有泉智子

『MUSICA7月号 Vol.123』