Posted on 2018.06.25 by MUSICA編集部

前人未到のライヴを経て、エポックメイクな様式美と
世界観を全国に運ぼうと果敢に始まった巨大ツアー、
SEKAI NO OWARI「INSOMNIA TRAIN」。
その内と外をロングドキュメンタリーで一気におくります!

 

新潟・国営越後丘陵公園&富士急コニファーフォレスト公演に密着!
弩級のエンターテインメントの芯にあるものと、
彼らが迎えた過渡期に迫るロングドキュメント!

『MUSICA7月号 Vol.135』より引用

 

(前略)

5月19日 ツアー3本目新潟 本番日

 

今回のステージは、ライヴが始まる2時間以上前からオーディエンスに解放していることを踏まえると、照明が全開になっている時間よりもそうでない時間の方が目に晒される時間が長い。だからこそ、照明美による雰囲気で見せるだけではなく、何も明かりが灯されていない状態で独特の雰囲気を出さねばならない。しかも残酷なことに最早、セカオワといえばステージ自体がファンタジーになっていることがデフォルトになっているという、あらかじめとんでもなくハードルが高い中で参加者に新しい世界観をアピールしなければならず、それは本当にハードなことだと思うが、しかしそれを一番楽しんでいるし、そんなハードルはいつだって越えられると思っているのも彼ら自身で、その誇りや挑戦心が、今回の「INSOMNIA TRAIN」ステージには溢れ出ていた。

 リハーサルが始まった。“RAIN”を聴いている時に、Fukaseのライヴにおける歌声の変化や成長を感じた。あのまるでウィーン少年合唱団のような聖なる透明さを放つ声が、透明さというより人の気持ちや奥にある情念のようなものを声自体がきっちりと代弁するような、シンプルに言えば説得力や表現欲、そして様々な感情を代弁するような大きな包容力を感じたのだった。当初はそれこそ「色や意味を歌の中になるべく込めたくない」と、業の深い曲に対して自ら反発するかのような歌唱をしていたFukaseだったが、今はその曲の持っている世界観のその奥にある「願い」がなんなのかを、歌声で表現し切っているようだ。そんな歌を目に見える景色の、そのまた奥を見るように遠くを見つめながら歌っている。その歌を繊細なSaoriの鍵盤とNakajinのギターが支え、随分とタフになったLOVEのビートが前へ前へと進めてゆく。

 12時9分にリハーサルが終わった。まだメンバーもローディーと打ち合わせしたりしていたが、ステージに上らせてもらった。

 まず驚いたのは、実は彼ら4人のステージ上でのスペースがとても狭いこと。ステージ自体があれだけ大胆なデザインになっている分、多くのスペースを演出に寄せているので、実際に彼らがミュージシャンとして動ける範囲がとても狭いのである。その印象を伝えるとNakajinとLOVEが「そうなんですよ。実は毎回こんな感じで。『Tarkus』だけは円形ステージだったから自由度が多くて逆に悩んだりしたんだけど、基本は毎回こうやってきっちりどこで演奏するかが決まっていて、その上で敢えて動いたり、自分がSaoriちゃんのところに様子を伺いに行ったり(笑)してるんです」と話してくれる。

 ツアー初日の熊本でも感じたこのツアー一番の新鮮さは、Fukaseがベースを弾きながら歌う曲が複数あることだったが、この日もリハーサルでも改めてその新鮮さを感じた。面白かったのは“スターゲイザー”。言ってみれば無機質さすら感じる歌を含めてエレクトロがバッキバキな楽曲で、Fukaseがベースを持ち、Nakajinがアコギを持ち、Saoriがピアノを高音域で奏で、アナログなパーカッションも大胆に導入されるというのは電子音楽的なマナーとしてはかなりアナーキーなアレンジだが、彼らはそもそも本能的にしか曲と向かい合えないバンドなので、得てしてこういうことが多くなる。独特の曲の世界観にふさわしい独特のアレンジが、今回のツアーのセットでも披露されそうだ。

 リハが終わって楽屋に戻ってきたFukaseになんでベースをライヴで弾くことにしたの?と尋ねた。すると「そもそもベースが大好きで、前からシンセベースや本物のベースを買ったりしてて。海外を回るEnd of the Worldの時も、日本より遥かにシンプルな構成で、サポートミュージシャンも入らずに(今回のツアーは生ドラムとベーシストの外人ミュージシャンがサポートとして入っている)やってるが故にベースを弾くこともあるから、今回何曲かそうしてみたんです。確かに“スターゲイザー”は鹿野さんが言う通りのエレクトロかもしれないけど、そもそもはほんとに好きなことだけを一気に詰め込んで瞬間的に作った曲だから、僕にはこれが至って普通の姿なんですよね」と話してくれた。

(続きは本誌をチェック!)

text by鹿野 淳

『MUSICA7月号 Vol.135』