Posted on 2018.08.24 by MUSICA編集部

クリープハイプがクリープハイプを超えた名盤!
言葉にできない音楽、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』。
尾崎単独、長谷川・小川・小泉3人取材、セルフライナー
ノーツ、手書き歌詞掲載、東京世界観最終回による完全読本

 

撮影=大森克己

「もう知らねぇよ!」と言ったり、「うるせぇ!」という感じで突っぱねて
逃げるのが僕にとってのロックだと思いながらやっていたんですけど、
でもやっぱり年を重ねて悔しい想いも、痛い想いもする中で、
こういうふうに変わってきた……今までは「悔しい」「怒る」「泣く」で
終わってたけど、その後に「嬉しい」という先がちゃんと見えた。ようやく
「泣くとか歌うのは、実はこういうことなんだ」と説明できるようになってきたのかもしれない

『MUSICA9月号 Vol.137』より引用

 

#1 尾崎世界観、単独インタヴュー

 ■敢えてこの言い方をさせてもらうけど、この2年はクリープハイプの尾崎世界観ではなく、ひとりの尾崎世界観としての仕事が多かったし、その中でヴァラエティやナレーションといったテレビの仕事もやっていって。そして音楽的にも、タワーレコードの企画でSTUTSと一緒にスワローズの歌を作るという形で音楽的な実験もやったし、本当に様々なことを全部やり切った上でここに行きました。そうやって自分自身が世の中に出て行った中で刈り取ってきた気持ちが、このアルバムの明るさと大衆性に結びついていると思いますか。

「それはあると思います。あとバンドをやっていく上で、時間がないとか調子が悪いとか、そういう言い訳が自分の中でなくなったことも大きいです。今までは一歩が出なかったんですよね。体が動かない、疲れた、と言って休んだりしていたところが、いろんなことをやっていたことで、単純に自信もついたし、経験値も上がって、いつの間にか動けるようになっていて、これは全然できるぞと思って。……あとやっぱり、メンバーとの関係も変わったと思います。前は遠慮して、『ここまでは言っていいけど、これ以上踏み込むのはどうなんだろ?』とお互いにお見合いしてたところがあったと思うんです。それってある種のリスペクトでもあるんですけど。でも今回は、自分も積極的にそこを超えてもっと意識することができたし、面倒くさいこともやってくれと任せられるようになりました。メンバーもメンバーで、僕が個人で動いている間、しっかり練習していたと思うんです。だから技術が格段に上がって、ミュージシャンとしてのレスポンスも早くなりました。そこが凄くよかったし、重要なことだったと思います。外から見たら『ただでさえワンマンバンドなのに尾崎ばっかり前に出て、ますます歪なバンドになっていくな』と思うかもしれないけど、実際は逆なんです。僕自身も本当に、いろんな仕事を全部音楽に落とし込むんだという気持ちでやっていたし、絶対にバンドに返すんだというのは明確にありました。……正直、(他の仕事は)応急処置みたいなところもあったんです。声の不調に悩んで、やっぱり音楽だけだと辛くなってきたりもして、だけど、どうにかしてこのバンドを沈ませたくない、なんとしてもバンドを続けたいという時に、自分の名前だけでも出しておけばちゃんとバンドが残っていけると思って。そういう気持ちがあるからこそ、それぞれ1個1個丁寧に本気でやっていたし、楽しくやってもいました。映画のコメントひとつ書くにしても、いろんな人のコメントが並んでいるけど、尾崎世界観って人のコメントが一番凄いと言われるように本気で書いていました。そういうことが全部、ちゃんとこのアルバムに返っているような気がします。……やっぱり僕は、今のクリープハイプがいるレベルに関して、悔しいと思っているんですよ。もっと売れたい、社会現象になりたいという目標は今も凄く持ってるので」

■今の話はよくわかる。とにかくこのアルバムにはメジャー感があるんですよ。このメジャー感は、ご自分がテレビの仕事や、本っていう全然違うフィールドに突っ込んでいったことによって、自分の皮膚感覚でちゃんと世の中のマーケットというものを知ったことが、なんらかの形で強く関係してるんじゃないかと思うんです。

「なるほど、でもそれはないです、きっと。やっぱりクリープハイプはカウンターとして存在しているとは思っているので。マーケットは見えてきました、確かに。でも見れば見るほどやっぱりよくわからないものだなと思います(笑)。単純にもう失敗したくないと思うんです。失敗してきた経験があるからわかるんですよ、作品が届かなかった時は本当に殴られたような痛みがあるんです。斬られたような切り傷、痛みがちゃんと残っていて。それを身体が覚えているから絶対に同じ失敗を繰り返したくない」

(続きは本誌をチェック!

 

#2 長谷川カオナシ、小川幸慈、小泉拓3人インタヴュー

(前略)

■引き算がお上手になったのは、つまり前作ぐらいからこのバンドがよりバンドになったからだと思うんです。で、それを“バンド”という曲がひとつ明確に表したことによって、クリープハイプがよりバンドになったことを、より僕らに伝えることになった気がして。で、そのことをメンバーのみなさんもキャッチしているような気がして。それがこのバンドだからこその押し引き、つまり引き算みたいなものになった気もするんです。

長谷川「まさにそれが大きいと思います。アルバムができる度にバンドらしくなったなといつも思うんですけど、『世界観』の時も思って、今回もやっぱり思いましたね。それは何が違うのかと言うと、もしかしたらいつも同じかもしれないですけど、俺ってこういう人間だよねというメンバーそれぞれが、『今俺が出たほうがいい』、『出なくていい』という心地いいところに着いているのかなと。それが外から見てもバンドらしく見えるのかなと思います」

小泉「そうですね。単純に風通しがよくなったんじゃないかなと思います。メンバー同士の関係性だったり、レコード会社の人達とのやり取りとか、ここにきていいふうにまとまってきたというか。それが音にも単純に出たんじゃないかなと思います」

■拓さんさ、ステージでもドーンと構えてて、声もこんな男気溢れる低音で、いつも威風堂々としてる気がするんだけど、それなのに気遣い――。

小泉「俺、気遣ってますよ、めっちゃ(笑)。いい意味だけでなく悪い意味も含めてバンドにも気を遣っているんです……性格もあるんでしょうけど。……でも、うーん、それも含めて単純に楽しくて、ここにきてようやく(笑)。きっと各々の考え方が微妙に変わったりして、今まで許せなかったことが許せるようになったりとか、きっとそういうことでしょうね」

小川「最初の頃は尾崎についていこうとしていて、尾崎も初めてでいろいろ考えてやらなきゃいけないことがあって、でも、俺らはそこについていけていないかもという想いがあって……その中でライヴをやって、作品を作っていくことによって、だんだんと今は大変な時期だからこういうふうにサポートしなきゃとか、俺らになんかできることないかなとか、そういうのが時間がかかったけどできるようになってきて。そういうところでよりちゃんとバンド4人でやっていく、やってきたことが残せているので」

(続きは本誌をチェック!

 

text by鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.137』